25人が本棚に入れています
本棚に追加
サニーサイドアップ
「あ、起きないで」
大家は黙って永愛のベッドの脇に座る。
「大家さん、やっぱり優しいですね」
「そう?」
──大丈夫?
──辛い目にあったわね
──かわいそうに
──早く元気になって
本当に人の不幸を思いやれる人間は、こんな時余計な言葉は吐かない。
永愛にはそれがありがたかった。
「私達、大家さんとあの部屋に出逢えて本当に良かったです。
まだ一日も暮らせてませんけど」
大家は永愛の肩にそっと触れる。
「ちびちゃん達のことはまかせてね。何も心配しないでゆっくり治すのよ。絶対に急いで退院してはダメ。それが陽くんや藍ちゃんのためなんだから」
「はい……」
大家の手を握り、永愛は声を詰まらせる。
人の不幸を思いやれる人間は、自分もそれを知っているから。
裕二。いいえ、サニー?
「ごめんなさいおばあちゃん。僕がサニーを呼んじゃったんだ」
「たまご」が壊れてしまったことを話したら、陽はなんと知っていたのだ。
「ママが首しめられて、でもぼく、お腹痛くて声が出なくて」
たすけて……サニー!
「恐竜だった?」
「ううん、かっこいいお兄ちゃんだった」
「サニーはどうやってワルモノをやっつけたの?」
「わかんない。僕そこで寝ちゃったから」
「そう」
かっこいいお兄ちゃん。
溢れてきそうな涙をこらえ、大家は言葉を続ける。
「もうお腹は痛くない?」
「うん。お医者さんも「ないぞう」までとどいてないって言ってた」
「良かった」
「おばあちゃん」
「ん?」
「サニーはもう戻ってこないのかな」
「どうかしらねぇ……」
大家が少し窓を開けると
微かな沈丁花の薫りが入ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!