サニーサイドアップ

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サニーサイドアップ

「あ、起きないで」 大家は黙って永愛(とあ)のベッドの脇に座る。 「大家さん、やっぱり優しいですね」 「そう?」 ──大丈夫? ──辛い目にあったわね ──かわいそうに ──早く元気になって 本当に人の不幸を思いやれる人間は、こんな時余計な言葉は吐かない。 永愛(とあ)にはそれがありがたかった。 「私達、大家さんとあの部屋に出逢えて本当に良かったです。 まだ一日も暮らせてませんけど」 大家は永愛の肩にそっと触れる。 「ちびちゃん達のことはまかせてね。何も心配しないでゆっくり治すのよ。絶対に急いで退院してはダメ。それが(はる)くんや(あい)ちゃんのためなんだから」 「はい……」 大家の手を握り、永愛は声を詰まらせる。 人の不幸を思いやれる人間は、自分もそれを知っているから。 裕二(ゆうじ)。いいえ、サニー? 「ごめんなさいおばあちゃん。僕がサニーを呼んじゃったんだ」 「たまご」が壊れてしまったことを話したら、陽はなんと知っていたのだ。 「ママが首しめられて、でもぼく、お腹痛くて声が出なくて」 たすけて……サニー! 「恐竜だった?」 「ううん、かっこいいお兄ちゃんだった」 「サニーはどうやってワルモノをやっつけたの?」 「わかんない。僕そこでから」 「そう」 かっこいいお兄ちゃん。 (あふ)れてきそうな涙をこらえ、大家は言葉を続ける。 「もうお腹は痛くない?」 「うん。お医者さんも「ないぞう」までとどいてないって言ってた」 「良かった」 「おばあちゃん」 「ん?」 「サニーはもう戻ってこないのかな」 「どうかしらねぇ……」 大家が少し窓を開けると (かす)かな沈丁花(じんちょうげ)の薫りが入ってきた。
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