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「ワケあり」
「では今日からよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
母親の真似をして、陽と藍もちょこんと頭を下げる。
「じゃあ後でな。サニー」
「たまちゃ~ん」
子供達が「たまご」にむかって手をふった。
「待ってるわね」
大家が微笑んだ。
今夜は金曜。
夫は勤め先から母親の暮らす実家に直帰する。
そしていつも上げ膳据え膳の休日を過ごした後、日曜の夜遅く帰宅するのだ。
『君が仕事を続けるなら、子供はおふくろに預けるしかないな』
『保育園? 君、母親だろう?』
『時計を見てごらん。僕はもう二時間、君の無駄話を聞いたよ』
『目が覚めたかい? このご時世に僕の収入だけで一生君の面倒を見てやろうと言っているんだ。いいね? もう我儘は言わないね? 大丈夫、僕だって手加減は知っている』
『おまえ達も黙りなさい。泣けば助けてくれるほど、世の中は甘くはないよ』
これからは陽と藍も声を出して泣けるようになる。
これで今夜からこの子達は安心して眠れるようになるのだ。
藍が少し身を捩り、繋いだ手を陽が握り返してくる。
ふたりを強く抱きしめていることに、永愛はしばらく気がつかなかった。
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