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内見
「あの、これ……」
和室の一角を指差して
山崎永愛は振り返った。
「たまご~」
娘の藍が手を伸ばす。
「こら、だめだよ」
陽がよいしょと妹を抱き上げた。
「お兄ちゃんえらいのねぇ」
老いた大家が目を細める。
押し入れのすぐ横に飾られている置物は、どう見ても大きな「たまご」だった。
「『ワケあり』ってこれですか?」
「ええそうなの」
さらりと大家は言う。
「いつからあったのかしらねぇ。一度処分してもらおうとしたことがあったんだけど、ぴったりくっついちゃってて捨てるなら床ごと剥がさなきゃダメだって言うの。よく見たらちょっとかわいいし、それならこのままでもいいかなって」
「恐竜の卵みたい。ザラザラしててあったかいや」
「あらそう?」
陽の言葉に大家はうふふと笑う。
大きさはラグビーボールくらい。
「ぼく育てていい⁉」
曇りのない目で陽が大家を見上げた。
これオブジェですよね?
言いかけた永愛に、大家がしぃと人差し指を口に当てる。
「ええもちろん。お願いするわ」
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