3、虐げられ侯爵夫人は幸せになりたい

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「君は何か僕に言うことがあるよね?」 「ほ、本日も……お仕置きをしてくださり、ありがとうございます」 「よろしい。僕は疲れたからもう休むよ。君に仕事を与えるから、それを明日の朝までに済ませるんだ。僕が出かけるときに完璧にしておくんだよ。いいね?」 「かしこまりました」  デリーはふふんっと笑ってキルアを玄関ホールに残したまま部屋へ向かう。  残されたキルアを見て、使用人たちがくすくす笑った。 「今日もいいものが見られたわね」 「ほんと、楽しいわ」  キルアは使用人たちの娯楽の種でしかなかった。  使用人だけではない。デリーの侍従である男セドルも冷たい人間だった。  セドルは顔に火傷の痕があり、常に無口で無表情。  不気味なオーラを放っていて、使用人たちでさえ近づかない。  キルアもあまり接触しないようにしている。  デリーから命じられた仕事は書類整理だ。キルアはそれをセドルから受けとる。  セドルは無言でキルアを見つめたあと、そのまま主人のあとを追った。  泣いている暇はない。  書類整理を完璧に仕上げて明日の朝デリーに提出しなければならない。  デリーは神経質なのでひとつのミスも許されない。  キルアに今夜寝る時間はなかった。
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