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後で聞いたら良いかと思って、自分の席に座りなおす。食事中でも友達と合ったら立ってお話するのがマナーだからね。もう挨拶は済んだからランチを食べないと。って思ったのに、何故か誰も動かない。
どうして?
「惟吹が久しぶりにここに来たいと言うから来てみれば、懐かしいヤツにも会えたな」
うん?
「……お久しぶりです、市条先輩」
「ミツキの知り合いだったの?」
それならそうと早く言ってくれたら良かったのに。ミツキとも顔見知りだから動かない訳だ。
「……まあ」
「俺たち、やり合った仲だもんなァ」
イチジョウさんがそう言った直後、周りから悲鳴が上がってそっちにびっくりしてしまう。人間の視線が集まってるのは気付いていたけど、皆耳を澄まして聞いてたんだね。
「ちょっ」
「何をやりとりされたんですか?」
やり合う、というニュアンスが分からない。何をやりとりしたのか曖昧過ぎるよ。
「ぷっ、ははっ!外国人ってのは本当のようだなァ!素で分からねぇ顔してやがる」
素直に聞いただけなのに、どうしてそんな笑われなきゃならないの?周りの人たちも。……酷いよ。
「すみませんが、彼に変なことを話すのは止めてください」
……ミツキ。
「そうですよ!彼の肩を持つわけではありませんが、ニナは貴方がたと違って純粋なんですから!」
イブキも!
兄さんたち、これが友情というものなんだね!ぼくは初めて体験したよ。こんなにも温かなものなんだ。
「根暗そうなのに、こんな奴のどこが良いんだ?」
ーーえっ!?
「わぁっ!な、何をするんですか!?急にハグするのはマナー以前の問題ですよ!」
それにぼくは座ってたんだよ?無理やり立たせてハグしてくるなんて、強引過ぎる!横暴だよ!ほら、周りの人たちも騒いでるよ。
「マナーねぇ。それにしても、意外とちっせぇな。こんなんじゃ、直ぐに抱き潰しちまうな」
この人けっこう力がある。
ぼくは家族の中では一番非力に見えるけど、これでも吸血鬼だからそこそこ強い……はずなんだけどな。どうして腕の中から抜け出せないの?
「人を潰せるって本当ですか?もしや、あなたは悪魔では?」
ぼくが逃げ出せないぐらい強いんだもの。まさか、ここに僕以外にも人外の生き物がいたなんて。
「悪魔?……っく、ははははは!そうかもなァ!俺は悪魔かもしれねぇなァ!」
綺麗な顔をしているのは悪魔だったからなのかも。あれ?それじゃあ、この人たち全員人間じゃないって事?
「先輩、冗談は止めてください。ニナが本気にしますので。それと、いい加減離してやってください」
ミツキ……ぼく、やっぱり顔に出てた?いや、それよりも冗談?えっと、つまりジョーク?嘘ってこと?
「嫌だ、って言ったら?」
「……っ」
なんだ、そっか。そういう事なら。
「あなたは悪魔になりたいのですか?」
「は?」
何なの、その顔。……あのさ、ミツキまで似たような顔して心外だよ。
「嘘でも悪魔だと認めるという事は崇拝しているからでしょう?」
悪魔崇拝は昔からどこの国でもあったからね。ぼくとしては吸血鬼崇拝がないのが悲しい。
「いや、ニナ、それは」
「……いっそ、悪魔になれたら良いのにな」
それはあまりにも小さな声だった。
先程までの覇気はなく、ぼそりと秘めやかに自嘲しているかのような声に驚く。
「えっ」
思わず聞き返すと。
「お前、おもしれぇじゃん」
よく下の兄さんがするような企み顔でニタリと笑ったイチジョウさんの口づけがぼくの頬に落ちてきた。
「なっ!」
『きゃーーーーーー!!!!!!』
びっくりするより先に周囲の生徒たちの悲鳴とざわめきに驚かされる。というか、耳が痛い。
「鳴継っ!」
「市条!あなた、よくもニナにそんな事を!」
イチジョウさんのファーストネームを叫ぶミツキに腕を取られる。怒った顔が恐かったけれど、訳も分からず今度はイチジョウさんの腕の中から今度はミツキの腕の中に移動して理解が追いつかなくなった。
な、何が起きたの?
「お前のその顔、久しぶりに見た」
えっ、どういう事?
もう何がどうなっているのか分からない。学校ってこんなに騒がしいの?
説明を求めようとミツキを振り返る。
「騒がしいと思ったら、生徒会役員が全員でお出ましとはな」
なのに、今度はまた別のグループがやってきた。
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