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「申し訳ありません、もう大丈夫ですので」
それって。
「振り向いても良いのかな?」
「はい」
声のトーンからも落ち着いているのが分かる。本当に大丈夫そうだ。
「ぼく、お邪魔だったかな?」
嫌なことをされていたのはなんとなく分かったんだ。でも、本気で嫌がっているようには聞こえなかったから、念の為聞いてみる。
「とんでもない!窮地に陥っていた所を助けて頂いて感謝しております!」
……え、っと……きゅ、きゅうち?おちい?うん?
「困った所を助けてもらいありがとうございました、という意味です」
ああ、なるほど。……って、もしかして顔に出てたかな?
「また困った時は、ぼくがいつでも助けるからね」
で、合ってるよね?兄さんたちに買ってもらった教科書にはそう載っていたもの。ほぼ丸暗記したからね。今度は上手く返事が出来……って、ええ!?な、泣いちゃった!ど、どうしよう……フィンレー兄さん!ジュリアス兄さん!泣かせた?ぼく、泣かせちゃった?
「あ、あの、ご、ごめ」
「すみません。……嬉しかったんです」
「そ、そうなんだ」
泣かせたかと思ってびっくりしたよ。な、なんだー、そっか。
「嬉しい時は泣いても良いんだよ。あなたは素直な人なんだね」
これも教科書に載ってたんだよ。もう兄さんたちに買ってもらった教科書すごいね!
「……うぅっ」
また!?泣きべそなんだなぁ、この人。
「ハンカチ、いる?」
「いえ、きちんと持っていますので」
まあ、そんな感じっぽそうだよね。さっきはあまりにもびっくりしたからちゃんと見てなかったけれど、制服のボタンはきっちり留めてるから真面目さが滲み出ていて、髪は少し長めだけどサラサラと風になびいて清潔感がある。流し目にメガネをかけてるから性格がキツそうにみえるけど、今は全くそんな感じしないなぁ。
「素直って言ってもらえたのが初めてで、それにこんなに優しくしてもらえたのも初めての事でしたので嬉しかったんです」
「ぼく、なにもしてないよ?」
だって、全て教科書に載ってた文を口にしただけだもの。
それなら、ぼくの兄さんたちがすごいって事だよね。そっか、それなら嬉しいな。
「貴方のような方に出逢えて私は幸せです」
「ぼくもあなたに会えて嬉しいよ」
ここが何処か分からなかったからね。この人に門を開けてもらわなかったら、山の中で迷子になる所だった。吸血鬼はなかなか死なないけれど、さすがに日中彷徨ったら乾涸びちゃうよ。
「そ、そうですか……」
理事長室にも案内してくれるっていうし、ラッキーだよね。
「あ、そういえば名前なんていうの?」
こういう時はきちんとお礼をしなくてはならないよって兄さんたちが言ってた。なら、名前を聞いておかなきゃ。
「惟吹です、イブキ。六武 惟吹。イブキと呼んでください」
確か、この国は名前があとにくるんだよね。だから、イブキか。
「イブキだね。ぼくの名前はニナ・ブランシェ。ニナだよ」
「ニナ。とても素敵なお名前ですね、ニナと呼んでも?」
「もちろん」
ぼくたちもう友達だからね。友達って、名前で呼んでもらうものなんでしょう?
確か兄さんにもらった参考書にそう書いてあったよ。
「ありがとうございます!光栄です」
「えっ、そう?」
そこまで喜んでもらえるなんて、ぼくの方こそ嬉しいな。あー良かった。とりあえず、ここに暮らす人間とは上手く共存していかないといけないもの。これでなんとかやっていけそう。
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