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19-16 セリアの説得 ③
「話の本番?一体どんな話だ?」
これには流石のエルウィンも眉をしかめる。
「はい、お二人の結婚式についてです。シュミット様のお話では『レビアス』王国でも指折りの結婚式を挙げる予定だそうですね?」
いつの間にかセリアはテーブルを挟んで、アリアドネとエルウィンの向かい合わせに座っている。
「ああ、そうだ。盛大な式を挙げて、陛下は勿論……そうだな、絶対に王太子殿下は招かなければ。俺とアリアドネの結婚式を見せつけるチャンスだ。あの男のスカした顔を拝んでやる」
不敵な笑みを浮かべるエルウィンにシュミットは思った。
(エルウィン様……よもや、恋敵である殿下に見せつけるために盛大な結婚式を挙げようとしているだけなのでは!?)
「それに……そうだな。同盟国にも招待状を送ってやろうか。そうなると更にリストの枠を広げねばな……」
もはやアリアドネは口を挟むことすら諦めてしまった。
「エルウィン様。結婚式を挙げるのは一向に構いませんが、もっと規模を縮小して下さい。お祝いなら私達と領民たちで盛大に致しますので王侯貴族を招待するのはおやめ下さい」
セリアはきっぱり言い切る。
「何だって!?他の王侯貴族を招かないと言うのか!?何故だ!」
とうとう我慢できずにエルウィンは立ち上がってしまった。
「落ち着いて下さい、エルウィン様。セリアさんには何か深い考えがあるに決まっています」
アリアドネはエルウィンを宥めながら、内心ホッとしていた。出来ればアリアドネは盛大な結婚式はしてもらいたくなかったからだ。それはやはり自分が妾腹の娘であるということと、貴族令嬢の嗜みを一切受けてこなかったことを招待客の前でさらされたくは無かったからである。
「う、うむ……そ、そうだな。続けてくれ……」
セリアとアリアドネには頭が上がらないエルウィンは頷くと、再び着席した。
「それでは何故、内輪だけで式を挙げるかと言うと理由は唯一。それはエルウィン様が辺境伯だからです」
「俺が……辺境伯だからか?」
「ええ、そうです。国境を守る辺境伯が盛大な結婚式を挙げるとなると、この国を狙う敵国に当然知れることになります。他の王侯貴族等も大勢招けば、そこに敵が紛れ込むのも容易になりますし、スキを突いて敵が攻めてくるかもしれません」
「そ、そうか……!そのことがあったか!すっかり忘れていた!」
頭を抱えるエルウィンにシュミットは心の中で叫んだ。
(エルウィン様!ひょっとして貴方はご自分が辺境伯だという立場を今迄忘れておられたのですか!?)
「クソッ……!確かに言われてみればその通りだ。俺は辺境伯。越冬期間も明けた今、いつでも敵に備えていなければならない立場だと言うのに……!」
そして隣に座るアリアドネの両手をガシッと握りしめた。
「すまない、アリアドネッ!!折角美しい花嫁姿のお前を世間に自慢……いや、披露したかったのに、それが叶わなくなった!」
「い、いえ。私のことはどうぞお構いなく。結婚式も特に望んではおりませんから」
内申ホッとしながらアリアドネは笑みを浮かべる。
「いや、そうはいかない。必ず式は挙げよう。招待客は『アイデン』の領民達だ。お前にピッタリ合うドレスも必ず作らせる。それで我慢してくれ」
アリアドネに謝罪するエルウィンを見つめながら、セリアとシュミットがほくそ笑んだのは言うまでもなかった――
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