本編②

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ねぇ、聴いて。 これは、俺と愛しいあいつの物語。 何度目かのキスだった。 でも俺にとっては、忘れられないキスだった。 あれから、今まで以上にあいつのことが頭から離れない。 誰とセックスしても、誰とキスをしても。 これがあいつならいいのに。という考えが浮かんでは自己嫌悪に陥っていく日々。 それなのに、どうして? 「何してんの。」 お前は、また俺の前に現れる。 東京の大学に合格したんだと、母さんから聞いた。もう、一生会うことはないと思っていたのに。 「咲也...。」 実はこの間も気になっていた。 やっぱり、もう俺はかっこいいお兄ちゃんではないんだよな。 久しぶりに会ったあいつはキスした時と同じ()をしていた。あの、熱情が篭った瞳を。 まずい。 「おれ、ずっとあんたのことが!」 「言うな!!」 俺はあいつの言葉を遮った。 本当は、その言葉を、俺はずっと..... 「お前は勘違いしてるんだ。」 俺を期待させないでくれ。 お前は一時の感情に乗せられてるだけなんだ。 「俺、明日にはもう東京に行くんだ。これで最後にするから!」 知ってる。もう、お前とは会えないから。 最後だから… 「あんたを俺のものにしたい。」 どうして...? どうして、お前はいつも、 俺が大切に(しま)っていたこの感情を、 いとも容易く引きずりだすんだ。 「入れよ。」 一時(いっとき)の気の迷いは俺のほうだった。 どうせもう最後なら、 俺の思いが報われるなんてこと、 1回くらいあってもいいんじゃないだろうか。 そう、思ってしまったんだ。
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