prelude 詠次 1

4/4
前へ
/226ページ
次へ
意外とディープな話題だったのだろうか。 深掘りしない方が賢明な気がする。 アジアンテイストの シーリングファンを見上げながら 詠次は 「ここ、いい店だね」 と言った。 店内の中央に吹き抜けスペースがあり シーリングファンが設置されている。 タクシーの運転手に この店の位置を伝えるため 検索をしたときに、 シーリングファンのデザインが 人気だという書き込みが多かった。 「ん、ウチの会社がやってる、ここ」 あからさまに話題を変えたことを 気にする様子はない。 「そうなんだ」 芸能事務所が飲食店を経営するのは 珍しい話ではないが 場が盛り下がらないよう、意識的に リアクションを大袈裟にしておく。 「上の階にカフェもあるよ。  そっちはウチの会社の人か、  同伴者しか入れない。  デジタルロックの暗証番号  日替わりだし」 「厳重だね」 「地下の駐車場からのエレベーターは  3階にしか開かないから。  ホントに撮られたくない人たちは  上にしか行かないよ」 なりたい顔ランキング上位の顔が、 何かを思い出したように微かに歪む。 「上は……ちょっと煩いよ。  リラックスできないわけじゃないけど」
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加