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“みさきのシンゾウが奏くんのここで、
奏くんのシンゾウはみさきのここね”
幼い頃のある一時期。
美咲は、奏佑と
互いの心臓を交換したと
本気で信じていた。
私立中学の受験勉強を始める頃には、
ファンタジーの絵本や
童話のように、突飛で
ありえないことだと理解したが
知識として呑み込むことと
感覚的に納得することは
美咲の中で乖離していた。
“うん。みーさのシンゾウ、
大切にするね。
ぼくのシンゾウは元気?”
“元気だよ、ほら。ここ。
とっくんとっくんだよ。
奏くんのシンゾウ、
美咲も大切にするよ。
なくしたら死んじゃうもん”
全てが眩くて、その明るさゆえに、
現実世界が茫漠としていた時期。
無邪気に未来に信頼を寄せていた頃。
今でも、奏佑との関係を
説明しようとすると
あの会話に収斂してしまう。
パチパチとした薪の燃える音が
室内に響き渡っている。ひと月前に、
奏佑と訪れた河口湖畔のロッジハウスの
暖炉の音と、その音は何も変わらない。
あの夜も…
奏佑が暖炉の管理をしてくれた。
二人で肩を寄せあって
私が作ったホットショコラを飲んで
それから、それから……。
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