prelude 美咲 2

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伯父は、瞼を堅く、閉じていた。 『古今東西、近親婚を  どこまでタブーとするのかは、  時代や民族、文化、所属する  社会の価値観で異なっていました。  兄妹同士の婚姻を繰り返した  エジプト王朝みたいな例もあれば、  従兄妹・又従兄妹も禁忌としている  多く民族もいます』 一旦、吐き出し始めたら 止まらなかった。 自分の人生で、 最も長く時間を費やした疑問。 どうして、どうして、と。 いつの頃からか 美咲と奏佑の親密さを 歓迎しなくなった、母と伯父。 言外に滲む拒絶。 『何が許されて、  何を許さないのか。  何が当たり前で、  何を当たり前としないのか。  結局は、その時代とその社会を  生きる人々の主観でしか決まらない。  だから私は、』 タンノイのスピーカーから流れていた レスピーギの《ローマの松》が終わった。 普段であれば、間断なく 次の音楽を選ぶ伯父は、 身じろぎもしない。 森然(しんぜん)とした静寂だけが、 《真実の口》のように(そび)え立っている。
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