56人が本棚に入れています
本棚に追加
『だって、伯父さんの話はおかしいわ。
奏佑が継がないなら
私が継げばいい。
奏佑は、音楽に専念して、
私が、家のことを取り仕切る。
それで解決。
単純な想定問題なんでしょう?
片方が赤信号なら
もう片方の青信号を渡ればいい』
伯父の頬が力なく弛む。
『外聞が悪いといっても、
戦後の日本で
岸信介、佐藤栄作、菅直人。
従妹を妻にした首相が
3人もいるじゃない。
私たちが生きる時代、属する社会では、
従兄妹婚は、倫理的に
問題視されないという、
何よりの証左でしょう?
多数派ではない、というだけで』
この娘は…やはり自分と
よく似ている、と祐一郎は、
感慨を深めながら、美咲を眺めた。
『……そうだね。
あんな脆弱な理屈で
美咲ちゃんを騙せるとは、
思ってなかったよ』
『どうして駄目なのか…
何故なのか教えてください。
奏佑には、秘密にした方が
いいのなら………秘密にします』
美咲の言葉に伯父と母は押し黙る。
《カヴァレリア・ルスティカーナ》の
間奏曲のように、沈黙は続く。
『……奏佑と美咲。二人に
幸せになってほしいからだよ。
それから、事業を継がせるのに
見込みのある男がいる。
あれを幣原の家に取り込みたい。
つまり美咲ちゃんに、
政略結婚をしてほしい』
美咲の顔を見つめる
母の顔は苦しげだった。
その母を一瞥して、伯父は言う。
『現行憲法で保障された
基本的人権の保護を
無視するような話だからね。
酷いと感じるだろう?
何の言い訳もしないよ。
オレたちのせいだ。
オレと美緒子のエゴだよ』
最初のコメントを投稿しよう!