prelude 美咲 2

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『美咲ちゃんが、この話を受けないなら  奏佑への援助は打ち切る。  留学先(ムコウ)からも帰国させるか。  デュッセルドルフの支社に  駐在させるか、どちらかにするよ』 『幣原の家は、私が継ぎます。  伯父さんのお眼鏡にかなった、  その人には…経営陣に入ってもらいます。 笹岡さんみたいに』 伯父の腹心として、グループ上層部の 差配をする笹岡の名前をあげる。 『ああ…もともと笹岡のとこに  付かせるつもりではあるけど』 伯父は再び目を閉じて、 ゆっくりと深呼吸をする。 それから、瞼を持ち上げ 『もう一度、必要条件を  明確にしようか。美咲ちゃんが、  奏佑以外の男と結婚する。  …そうしないのなら、  奏佑を留学から帰国させる。  音楽の道は諦めさせる。  二択の単純な想定問題だ』 まるでパリサイ派のようだと美咲は思う。 伯父はこんなにも、律法学者のように 融通のきかない人だっただろうか。 『この場合、ゲームのルールに  何故/どうして/はいらない。  ルールに則って勝ちを  得られるかどうかだ。  ルールを決める権限が  オレたちの方にある、というだけさ』 いつの間にか、暖炉の火は消えていた。 『……二択では、ないですよね』 『美咲ちゃんの心情を  織り込み済みだからね。』 『私も…自分で決めたことなら、  幸せで後悔しないと思って  決断したことがあるわ。でも今、  幸せではあるけれど後悔をしている。  自分の、あの時の選択を。  選びたい方ではなく、選ぶべき道を  選ばなかったことを。ずっと、  何の後悔もしていなかったけれど……』 母の顔に《ピエタ》の聖母のような 澄みきった悲哀が、浮かんでいた。
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