prelude 詠次 1

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prelude 詠次 1

「私の本名ね、ここあ、っていうの」 30分以上待たされて、 目の前に男がやって来たというのに 大して気にする風でもなく スマホを片手に唐突にそんなことを言う。 この女の、展開を読めない、このノリが 二度目の食事に誘う決め手だったことを 森本詠次はあらためて思い出した。 待たせてごめん、の一言すら 口に出す隙がない。 「みずうみ、に、  片仮名のタみたいな字。それに、愛」 《湖々愛》か。なかなかの キラキラネームだなと思う。 「お腹空いてないんだよね。森本さん  適当に好きなの頼んでいいよ」 「そうなの?じゃ、勝手に頼むけど。  ドリンクのお代わりは?どうする?」 「ん、明日CM撮影あるから飲めない。  ジャスミンティーでいい」 アルコールを注文せず 明日は気をつかう仕事だと 釘を刺してくる。 遅れてくるような男は 切ることにしたのかもしれない。 今夜はお行儀よく解散だな。 気分を切り替えて 腹を満たすことにしようと 詠次はメニューを開く。 青パパイヤサラダ 海老の生春巻き 空芯菜の炒め物 焼き串の盛り合わせ スパイシー焼ビーフン ジン・トニック それから、ああ、これか。 ジャスミンティー (ポットサービス) 注文の復唱確認をして 店員が立ち去る。 「キラキラネームやばいって  思ったでしょ?」
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