prelude 詠次 1

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ジャスミンティーが運ばれてきた。 「姓名判断とかはすると思ってたけど、  そんなことまでするんだね」 翡翠(ヒスイ)色のファイヤーキングのカップに ポットからお茶を注いでやりながら、 手持ち無沙汰の相手に声をかける。 「ん。《シオリ》って、  前に使いたい人いたんだって。  でも無理だったんだって」 「無理?」 「サ行の滑舌が超悪くて。  今でも(いぬい)サンが歌詞書くの  苦労してるってマネが言ってた。  サ行の言葉を避けなきゃいけないから」 国内有数の芸能事務所グロリアに 所属していて、大物作詞家の乾拓磨に 作品提供をされるくらい売れている 女性歌手なんて2、3人しかいない。 なんとなく誰のことかわかった。 「気にいってる?その名前」 「ん、別に。どっちでもない。  周りから見て、顔と名前の  イメージが合ってればそれでいい。  ここあの為に考えた名前じゃ  ないじゃんとは思うけど」 「本名でデビューしたかった?」 湖々愛はジャスミンティーを 一口飲んでから答えた。 「でも、ここあは 《湖々愛》じゃないんだって。  だから仕方ないよね」
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