prelude 美咲 1

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天宮(あめみや)美咲と 幣原(しではら)奏佑の曽祖父 幣原幸一は立志伝中の人物として 今でも名高い。 戦後の荒廃期に安く買い占めた土地に 国鉄の新路線が走り、地価が高騰した。 運良く得た金で不動産業を本格的に始め、 ホテル、旅行会社、レジャー施設、など 関連事業も展開し、10年余りで 国内有数の企業グループを 作り上げたのだ。 就職面接でのお決まりの質問 “尊敬する人物は?” に 幣原幸一の名をあげる若者もいるらしい。 母がそのようなことを言っていたこと、 その後に続いた話を思い出し、 美咲はまた、ため息をつく。 『旧家名家というわけでなくてもね、  幣原幸一の孫が就職した、  結婚した、となれば、  それなりに世間に知られるの。  今だって、検索すれば、  孫はどこに嫁いだ、その子供は  何してるってあれこれと  書かれてるページがあるわ』 多分Wikipediaのことだな、と思う。 祖父のページの家族の項に、名前が 載っている程度なのに。ネットに 詳しくない母には、おそらく実兄、 美咲の伯父である祐一郎から 教えてもらった情報だけしかない。 三代目として耳目(じもく)を集めて育った 祐一郎伯父さまならともかく、 私や、奏佑がどこで何しようが、 世間にどう思われようがー… 『奏佑が俺の後を継ぐかどうか、  気にしてる奴は多い。先週も  経済番組のインタビューを  受けたときに探りを入れられたしね』 美咲は怜悧な思考で、 伯父の『想定問題』の(ほころ)びを 見つけるために、昨夜、母、伯父と 交わされた会話を思い起こしていく。
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