56人が本棚に入れています
本棚に追加
『ただし、何の交換条件も無しで、
というわけにはいかない』
喜びで思わず、両手を
握りしめたときだった。
伯父の声が響く。
私と目が合わないタイミングを
見計らっていたのかもしれない。
どこかで、やっぱりね、とも思う。
この、ややこしい家に生まれたことが、
何年も前から私たちを足踏みさせてきた。
引き継げば世間の話題になる程度の
財産と知名度。その繭の中で、
わたしたちはずっと身動きせずにいた。
相手の一番近くに
居続けることができる。
その現状に甘えていたことを
思い知らされる。
『失礼します』
食後のお茶とスイーツを載せた
クリストフルのベルエポックの
トレーを手に、理恵さんが、
声をかけながら入室してきた。
最初のコメントを投稿しよう!