prelude 美咲 1

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『ただし、何の交換条件も無しで、  というわけにはいかない』 喜びで思わず、両手を 握りしめたときだった。 伯父の声が響く。 私と目が合わないタイミングを 見計らっていたのかもしれない。 どこかで、やっぱりね、とも思う。 この、ややこしい家に生まれたことが、 何年も前から私たちを足踏みさせてきた。 引き継げば世間の話題になる程度の 財産と知名度。その繭の中で、 わたしたちはずっと身動きせずにいた。 相手の一番近くに 居続けることができる。 その現状に甘えていたことを 思い知らされる。 『失礼します』 食後のお茶とスイーツを載せた クリストフルのベルエポックの トレーを手に、理恵さんが、 声をかけながら入室してきた。
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