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「まだ時間がある。
新しく仕立てたらいいんじゃないのか?」
という父親に、継母、弥生子は激しく反対した。
「そんなことする必要ないわよ。
あるものでいいじゃない。
ねえ、咲子」
弥生子にそう言われると、……はい、そうですね、ということしかできない。
「あらあら、二人とも緊張なさって」
と品の良いおばさまが微笑む。
若い人たちの縁談を取り持つのが趣味、という三条行正の上官の夫人だ。
「これからご夫婦になるのですから。
そんなに硬くならずに」
もう結婚すること確定ですかっ!?
「行正さん、あなた、なにか咲子さんに質問でもなさってみたら?」
さっきから瞬きもしてないんじゃないかという感じに咲子を見たまま動かなかった三条行正が、よく通る声で言う。
「訊くことを思いつきません。
あなたからどうぞ」
しゃべった!
生きてたっ!
咲子は夫になるかもしれない男の整いすぎた顔を見ながら、そんなことを思う。
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