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目的地の駅で下り、会場のシティホテルを目指す。何だか少し緊張してきた。仲の良かった子たちはもう来ているだろうか。
「あ、横井真奈さん? 久しぶりねぇ!」
ホテルのエントランスをくぐると同い年とは思えない若々しく可愛らしい女性が声をかけてきた。首を傾げる私に「坂野よ、坂野美咲」と言う。
「え、坂野さん? 見違えちゃったわねぇ」
坂野といえば当時は貧相な体つきの地味な子だったはずだ。私のいた目立つグループのメンバーではない。なのに化粧の力だろうか全くの別人である。周りの男どもが坂野を見てざわついているのが目に入り何だか少し苛ついた。
「横井さんは相変わらず目立つわね。オーラがあるもん。入ってきてすぐに横井さんだってわかったわ」
まぁそんな風に言われれば悪い気はしない。「ううん、もうすっかりオバサンよ」と首を横に振りつつ二人一緒に会場に入る。
「あ! 横井さんお久しぶり」
「真奈ちゃん、元気だった?」
当時仲良くしていた女子から次々に声をかけられる。会場を見渡すとひと目で誰だかわかる人もいれば一体誰なのか皆目見当のつかない人もいた。時の流れというのは無情だ。会は和やかに進行し、案の定近況報告を中心に皆で盛り上がる。
「横井さん結婚して子供いるんだ。いいなぁ。私も早く結婚したいなぁ」
坂野が上目遣いで私を見る。
「あらまぁ。でも大変よぉ、夫の世話に子供の世話で。一日なんてあっという間!」
私の周りで既婚女性たちがウンウンと頷く。クラスの女子ほとんどが結婚しており独身者は少数派だった。
「あれ? でも美咲、彼氏はいるでしょ? そのうち結婚の話も出るんじゃないの?」
どうやら坂野と交流があるらしい鈴木香織がそう言うと坂野は嬉しそうに頷く。なんだ彼氏はいるのか、となぜだか少し残念に思った。
「この人なの」
そう言ってスマホの写真を皆に見せる。どうせ大した男じゃないだろうと写真を覗き込み、私は思わず息を呑んだ。
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