30人が本棚に入れています
本棚に追加
2.秘密
「ねぇ美咲、さっきから妙に嬉しそうだけどどうしたのよ」
同窓会も終わりに近づいた頃、トイレで化粧直しをしていると後から入ってきた香織が怪訝そうな視線をこちらに向けた。私はクスクス笑いながら香織を手招きする。
「ちょっと聞いてよ、もう可笑しくってさぁ」
「何がよ?」
「横井よ、横井真奈。クラスのアイドル真奈ちゃん! なんであんなのがクラスの人気者だったんだろうねぇ」
六年生当時クラスのリーダー的存在だった彼女。その理由は今考えるとまったくわからない。可愛いわけでも性格がいいわけでも、勉強やスポーツができるわけでもなかった。
「横井さんねぇ、確かに。でも子供の頃ってよくわかんない理由でクラスの中心になったりするよね。彼女の場合、歌ったり踊ったりしてたからかなぁ。そうそう、アイドル志望だったもんねぇ」
「あの見た目でアイドルって! 福笑いのおたふくみたいな輪郭に糸みたいに細い目! 昔から不細工だとは思ってたけど今じゃそれに加えてぶっくぶくに太っちゃって。よくあんなピンク色の服着られるよね。私、イチゴ大福が歩いてきたのかと思っちゃった!」
私と香織は腹を抱えて笑う。
「美咲も口が悪いなぁ」
「でも、もっと笑えることがあるのよ」
「もっと笑えること?」
首を傾げる香織に私は横井真奈の愉快な秘密を教えてあげた。
「あいつの言ってることね、全部嘘なの」
「嘘?」
「うん、あいつ結婚なんかしてないし子供もいない。今は倉橋って姓なのとか言ってたけどそれも嘘。私の従弟があいつがパートしてる会社と取引があってね。いろいろ聞いてるのよ。ボロアパートで独り暮らしだってさ。きっと頑張って“平凡だけど幸せな暮らしを送る私”を演出してるんでしょうね。でも二次会で全部ばらしてやろうと思って。ま、残念ながら本人は帰っちゃったみたいだけど」
口を尖らせる私を見て香織が首を傾げる。
「美咲、あいつに何か恨みでもあんの?」
香織の問いに私は大きく頷いた。
「ええ、大有りよ」
最初のコメントを投稿しよう!