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3.将来の夢
あれは小学校の卒業アルバム制作時のこと。その中に将来の夢について寄せ書きするというページがあり、私はそこに“将来の夢はパン屋さんになることです 坂野美咲”と書いた。母方の叔母がパン屋さんを経営しており、私はそこのパンが大好きだったから。するとそれを見た横井が鼻で嗤った。
「パン屋さんなんてさぁ、粉こねて焼くだけでしょ? 誰にだってできるじゃん。ばっかみたい」
その言葉にカッとなった私は思わず言い返す。
「そんなことないもん! うちのおばさんが焼くパンはホントに美味しいんだよ。誰でもできるわけじゃないもん」
大好きな叔母を否定されたような気がして私は躍起になって反論した。普段口数の少ない私が言い返してきたことに横井も最初は驚いていた様子だったが、やがてむすっと口を尖らせ私の肩を突き飛ばした。
「誰に向かって言ってんのよ、偉そうに」
いつの間にか彼女の取り巻き連中も私を囲むようにして立っている。
「あ、いいこと考えた。あんたそんなにパン好きなら今度レーズンパンが出たら全部あんたにやるよぉ!」
当時給食で出されていたレーズンパンは妙にパサパサしていて不人気だったので残す子が多かった。本当は「いらないよ、そんなのっ」と言いたかったのだが大勢に囲まれた私は急に怖くなり黙って俯くことしかできない。横井はといえば「私は誰かさんと違って私にしかできないことをするんだ」などとうそぶきながら“夢はアイドル☆ 横井真奈”と書いていた。
「わぁ、真奈ちゃんすごぉい」
「うんうん、横井さんなら何でもできるよぉ」
本心はわからないが周りの女子はここぞとばかりに横井を誉めそやす。私は心の中で「ばっかみたい」と思いつつも何も言い返せない自分が悔しかった。
それ以来何かといえば「パン女」だの「妖怪パン婆」だのといじられたり給食で残ったパンを投げつけられたりして、私は一時不登校になってしまった。奴らはそんなこと覚えてもいないだろうが。
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