1.同窓会

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1.同窓会

「あなた、じゃあ行ってくるね。千紗(ちさ)のこと頼んだわよ。千紗もちゃんとお父さんの言うこと聞いてね。ん? ああそうよね、もう三年生だもん大丈夫よね。あら、もうこんな時間。急がなきゃ」  私は慌てて家を出る。今日は午後から同窓会だ。小学六年生だった時のメンバーが集まると聞いている。桜の花びら舞い散る中、駅に向かってゆっくりと足を進めた。久々に履くハイヒールが気分を高揚させる。 (この格好でよかったかしら。あんまり派手なのも気合入りすぎって笑われそうだし、かといって地味なのもと思って選んだんだけど……。ま、春らしくていいわよね)  服装にはずいぶん悩んだ。新調しようかとも思ったのだが普段着ることのないような服にあまりお金をかけるのも躊躇われる。結局、以前友人の結婚式で着た薄いピンク色のワンピースを着ることにした。少し太ってしまったのでウエスト周りが少々窮屈だが仕方ない。 (六年生かぁ。懐かしいなぁ。今年で私も三十歳だからもう十八年前ぐらいになるのかしら)  電車に揺られながら当時のことを思い出す。私はクラスの中でも目立つ方で「将来はアイドルを目指すんだ」と言ってよく皆の前で歌ったり踊ったりしていた。 (結局平凡な主婦なのよって言ったらみんなに笑われちゃうかしら)  将来の夢を聞かれて「自分にしかできないことをするの!」なんて意気揚々と語っていた自分。でも優しい夫と可愛い子供に恵まれた人生ってのも悪くない。これはこれで自分にしかできないことだ。
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