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ライズアンヴィの領土で襲われたので、盗賊たちはライズアンヴィで裁かれることになった。用意周到な様子から手引きしたものがいるだろう。考えたくないけど、ハークの中から情報を漏らしたものがいる。
それでも、自分の領土内で起きたことだと、ライズアンヴィ国王は深々と頭を下げた。
「生け捕りにした者はすべて公開処刑する。どのような方法がよい? 」
夫婦になって初めての相談が処刑法。
「生け捕りにしたのなら、別の方法で処罰したらどうでしょうか? 農業に従事ですとか、鉱山で働かせるとか。」
「なるほど、死ぬまで労働させろと。悪くない。」
夫婦になって初めての相談が罪人の刑罰。
「貴殿の護衛は優秀だ。主に傷一つ負わさず十人の盗賊を仕留めた。天使のごとき騎士と噂されるのも納得だ。」
私は少し得意げに言った。
「ええ、シャーロットは天使のように美しく、強いのです。」
ライズアンヴィの国王がじっと私を見る。
「美しい? 美しい……そうか。」
何言っているかちょっとよくわからない、という顔だった。
「美しい、でしょう? 」
どこからどう見ても美しいやろがい。
「そもそも天使とは神の兵。血も涙もなく無慈悲に敵を抹殺し、人を罰する。貴殿の護衛があの茶会にいた者を一睨みすると、誰もが心臓が止まったかのように息すらしなかった。」
新事実。気づかなかった。
「そ、そうでございましたか? 」
私は後ろにいるシャーロットを見た。シャーロットはにっこり微笑む。前のような気品のある笑みというよりは、無邪気で愛らしい笑みだ。やはり彼女には金髪が似合う。
「盗賊の処遇は考えるとして、手引きした者、企てた者は極刑にする。絞首、斬首、火炙り、磔、四つ裂き、好きなものを考えておくとよい。」
ライズアンヴィの豊富な処刑。ドレスの色を決めるように決められない。むしろ一生考えたくはない。聞いているだけで血の気が引いてくる。
「や、やはり、農民の娘は反感を抱く方もいるのでしょうね。」
避けられない道だがやむを得ない。シャーロットの負担が増えないようにしばらくはおとなしくするべきだろうか。
「確かに腹立つことにそのような蒙昧な考えをする者はいる。だが王宮内ではそなたが思うよりも喜ぶものが多い。そうであろう。」
国王が側近を振り返った。そんな、本人の目の前で正直に言える話題じゃないでしょうが。
「全くです。どなたも陛下のお眼鏡に叶わず、どんな令嬢にお会いしても、痩せている、貧相、脆そう、折れそう、絶対折れる、等々ご納得いただけず。もうこの際平民でも農民でもいっそ奴隷でもと思いかけたところに隣国の王女を見初められたのです。私たち皆この大波に乗るしかないと思っていたのですがハークの国王は王宮に来たばかりなのでまだ嫁がせる気は……と渋られ、そこをなんとかと頭を下げ……。」
少し泣きながら語られた。
「父は、そのようなことを? 」
「本人の意思に任せるとおっしゃっていただけたときはもう、毎晩皆神に祈りを捧げ、マチルダ様が求婚を受けていただいたときはもう皆国民の祝日としたいほど喜びました。」
まさかあの求婚の裏でそんなドラマがあったとは。
「陛下、そろそろ会議のお時間です。」
しぶしぶ腰を上げた国王は思い出したように言った。
「マチルダ。」
「ひゃ、ひゃい? 」
いきなりちょっといい声で名前を呼ばないでほしい。心臓に悪い。
「今度農園の視察に行こう。そなたの農園を作らねばなるまい。」
「農園……私のですか? 」
農園が持てるなんて夢のようだ。葉野菜、根菜、小麦も育てたい。それはさすがに欲張りすぎか。何を育てよう。夢が広がる。
「収穫の時には手料理をふるまってくれるのだろう? 」
「……ハイ。」
スープのことを思い出した私を見て、満足そうに笑って行ってしまった。
どうしよう。あんな粗末なスープ。一口食べて具が少ないとか塩気が足りないと言われるかもしれない。
「マチルダ様。ご安心を。貴方のスープは世界で一番おいしいです。」
シャーロットが励ましてくれる。シャーロットに心を読まれてしまった。
「ありがとう……暑い時期はお芋育てられないから、冬までにおいしくできるようにしないとね。シャーロットも味見を手伝ってね。」
「ぜひ。」
にっこりと嬉しそうに笑う。
「ライズアンヴィの国王がマチルダ様をお慕いで、私も嬉しいです。」
赤面するからその話題はやめてほしい。
「もしも冷酷な方だったら、と……もしものことばかり考えていましたから。」
そう言ったシャーロットの目が、いつかと同じギラギラしたまなざしだったので、すっと顔のほてりが冷めた。
選択の重さを理解しろ。と、母の声が聞こえた気がした。
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