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最近盗賊が出たから泊っていった方がいいというけれど、フィービ様がニシンとカボチャの包み焼を作ってくれているので、遅れないように帰りたかった。あれだけは冷めてもおいしい。何か魔法の粉とか魔法のハーブとか入っているのかと思うくらいおいしい。
薄暗くなりつつある森を進んでいると、突然馬車ががたんと揺れた。
外には護衛がいたはずなのに、と思っていると馬のいななきがした。騒がしい声と怒鳴り声に、驚いて窓の外を見ると、護衛が馬車から落ちていくところだった。
馬が暴れている。何が起きたのかわからない。
しばらくして馬車は止まった。扉を叩いて外から男の声がした。
「降りろ。」
あ、これはやばい奴だと思った。どうする。どうすればいい。とりあえず召使を守らないと。
「マチルダ様はこちらにいらしてください。」
赤毛の召使はそういうとスカートの裏側に隠していた棍棒を持つと、扉を蹴とばした。外で待っていた男も一緒に吹き飛んでいった。
私は、赤毛の前髪で顔が見えずらく、大きな圧ぶちの眼鏡をかけた赤毛の召使の背中を見た。彼女、一言もしゃべらなかったけど納得した。
外から悲鳴や叫び声や怒鳴り声が聞こえる。それに交じって何かを殴る音もする。ソロっと見ると、赤毛の召使は男たちを消し飛ばし、棍棒で殴りつける。その身軽な身のこなしに反して重い一撃に男たちはどんどん倒れていく。
しかし最後の一人はやり手のようだった。彼女の間合いに入ってこない。どうするんだ? どうなるんだ? 私が見入っていると、召使は袖の下に隠してた投げナイフを男の頭に命中させた。
「シャーロット。」
呼び止めると召使が振り返った。
髪の毛の間から見えるその目がギラギラしていて、今まで見たことがない、奇妙な輝きをしていた。
それでも彼女は美しい女の子だった。
「怪我、していない? 」
シャーロットは自分の手や頭、服についた血を見る。全部返り血らしく、首を横に振った。
「良かった。」
本当に良かった。
「それ、染めたの? 」
髪の毛を指すと、シャーロットがうなづいた。
「……申し訳ありません。言いつけを守らず、勝手にこんな真似を。」
シャーロットの手が震えていた。
「シャーロット。こっちに来て。」
私が言うと、彼女はゆっくり近づいてきた。
「ありがとう。助けてくれて。」
シャーロットは私をじっと見る。
「マチルダ様、私、貴方のおそばにいたいのです。私、貴方に仕える以外の幸福がわからないのです。」
彼女の目が瞬きをせずに私を見る。捨てられた子犬のように悲しげだった。
私はシャーロットを抱きしめた。彼女の身体が強張って、ためらいがちに抱きしめてきた。
「分かった。一緒に行こう。」
シャーロットが私の肩に顔をうずめてうなづいて何度もうなづいた。
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