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Prologue
私は、父の顔を知らない。
戸籍上でも、存在しない。
それでも、私が生を得た以上、父親の役割を持つ人間がいるのは確か。
私は父に関する情報を、すべて母から伝え聞いた。
なんでも、『ジョン・エヴァンズ』という名のイギリス人だそうだ。
父が外国人というのは、私の髪が周りの他の子と違って薄い栗色で瞳はヘーゼル、顔立ちも日本人離れしているから納得できる。
純粋な日本人の母は、イギリスの貿易会社の社員だった父が日本に赴任していた時に、東京で出会ったという。
母は幼い私に、『王子様みたいな人だったのよ』と語った。
多分、私が夢中で読んでいた、シンデレラや眠り姫の王子様のように、素敵な人だと刷り込みたかったんだろうけど、その王子様はお姫様を迎えに来るのではなく、私が生まれる前に身重の母を置いて姿を消した。
そんなわけで、私の家族は、生まれる前からずっと母一人だった。
今の時代、シングルマザーは、それほど珍しくない。
でも、私が育った母の生まれ故郷の田舎町では、住民の感覚は都会に比べて一時代くらい遅れている。
母子家庭は、うちくらいだった。
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