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とうぜん、娘は嫌がったのだ。
だが、はじめて目にした両親のすがたに、娘は考えを変えた。
あの父と母が、地面に手をつき、深く首を垂れている。そして
「彗星さま」
と自分を呼んだ。
村人たちが山のような貢ぎ物を抱え、つぎつぎと家にやってくる。
つやつや輝く絹織物。よく磨かれた銀の食器。
とれたばかりの肉や果物。高価な酒と化粧品。
娘はからだ中から垢をそぎ落とされ、美しい着物を着せられて、唇に赤い紅を引かれた。
「彗星さま」「彗星さま」と、皆が頭を下げる。
これまで娘に石を投げていた若者までが、うやうやしく娘にほほ笑みかけた。
彗星が落ちるまでの、たったのひとつき。
娘は村の生き神となった。
娘にとってはじめての、幸せな日々。
きれいな着物。山のようなご馳走。自分にかしずく村人たち。
あたしはみんなの救世主じゃ。みんなを護る生き神じゃ。
これは、あたしンしかできねえことなんじゃ。
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