少年が青年と二人暮らしを始めるお話

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ここには、母さんに連れられて今までも何度か来たことがあった。 手紙も荷物も運んでくれる、町で一番大きな配達屋さん。 今年から通い始めた学校よりも、一回り以上大きなその建物。 初めて足を踏み入れた配達屋さんの裏側では、広い通路を人と物とが忙しなく行き交っていた。 「ガド君、ちょっと」 僕を案内してくれている恰幅のいいおじさんが、職員の沢山いる大きな部屋に、ひょいと顔を出して声をかける。 このおじさんは、ここの所長さんだった。 机で手紙の束を抱えて書き物をしていた黒髪の男が、声に気づいて、くるりと椅子を回しこちらを見る。 「俺ですか?」 なぜ呼ばれたのか分からないらしい男が、首をかしげながら近づいてくる。 所長さんの手に背中を押されて、僕が一歩前に出ると、男はさらに怪訝そうな顔をして見せた。 「ガド君、子供は嫌いじゃないだろう?」 「はあ、まあ……」 困惑しつつ僕を見下ろす男。 黒い髪に黒い瞳。肌は僕より日に焼けた色だ。 近くで見ると、男の顔や腕には、無数の引っかき傷のようなものや痣が見えた。 ひげも少しのびていて、なんだか酷く疲れた顔をしている。 「ガド君、今一人暮らしだろう?」 「……はい……」 元々ツリ目だった男の表情が、一瞬厳しさを増して強張る。 男の視線は僕の足元に落ちていて、その厳しさが僕に向けたものではない事を理解しかけていると、所長さんが僕の肩をポンと叩いた。 「この子、今日からうちで働く事になってね。  ただ、まだ宿舎に一人で寝泊りしてもらうには幼いから、しばらく君に面倒を見て貰えればと思うんだが」 「俺……ですか」 「ああ、君にだよ」 「いやでも、子供の面倒なんて、どうしたらいいか……」 「シリィ君は自分の事は一人で何でもできるそうだから、わからない事があれば、本人に聞けばいい」 。いいね?」 「……はい」 「ほら、シリィ君、彼がこれから君の面倒を見てくれるガド君だ」 観念したような男の返事を聞くと、所長さんは満足そうに僕を見下ろして挨拶を促した。 「は、はじめまして。シリィ・マクレーンです。  よろしくお願いします、えっと、ガドおじさん」 「おじっ……――」 ぺこりと頭を下げて、顔を上げると、黒髪の男は引きつった表情でこちらを見つめて固まっていた。
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