少年が青年と二人暮らしを始めるお話

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----------- 「あああああっっ!!」 体内を裂かれる感覚に、少年が耐え切れず悲鳴を上げる。 のけぞるその背を、男が背後から抱きすくめる。 痛いかと聞く必要なんてないだろう。痛いに決まってる。 一度抜いてやったほうが……と判断する頭とは裏腹に、息苦しいほどの欲求が男の体を支配する。 まるで耳元でなっているかのような煩いほどの心臓の音に、男の思考は麻痺しつつあった。 (今日が初めてってわけじゃないんだ。……大丈夫……もう少し、だけ……) 男は少年の腰を両手で抱えて、さらに深く侵入する。 その動きに、少年の体が反射的に逃げ出そうとするものの、男にがっちり掴まれた腰は少年の力ではどうする事も出来ず、ただ細い腕がシーツを掻く。 「うっん……ん、ああああああっ……!!」 めりめりと音が聞こえそうな程の抵抗を感じつつも、まだ筋肉の未発達な体からは痛みを与えられる事がなく、男の欲望は少年の壁に阻まれた後もさらなる深みを求めた。 「やっ……あっ……ガドさ、ん……いっ……。苦し……」 体の下で訴える悲痛な声に、男が我に返る。 痛いという言葉をあえて避けた少年に気付いて、男の息が詰まった。 「っ……悪い……今、痛くなくしてやるからな」 短く、心からの謝罪の言葉を告げると、荒く息をする少年の顔がほんの少し綻んだ。 涙をこぼし続ける少年の目に、背後にちらと見えた男の表情こそが泣きそうに映る。 (ガドさん……淋しいの……? ……だから……こんなことするの……?) 少年の胸に訪れたのは否定ではなく、純粋な疑問だった。 男の大きな手が、まだ柔らかな皮膚に包まれた細い体をまさぐる。 まだ小さすぎる突起は片手で十分に左右押さえられるほどで、男はその体の小ささ……『幼さ』を思い知らされる。 骨ばったところもほとんどなく、余計な肉も何一つない体。 それは、まだこれからどんな風にも成長して行く事が出来るはずの物だ。 (……それを、こんなところで、こんな男に……) 男は、じわりと胸に広がる罪悪感から目を逸らすように、必死で少年を愛撫した。 わき腹から胸へ、肩から首筋へ。 丁寧に指を這わせると、まだ癖のない体が時折ぴくりと反応をして、甘い声が漏れる。 痛みに固くなり、震えていた少年の体が、次第に綻び熱を帯びてくるのを感じつつ、男は背後から少年の小さく欠けた耳を舐め上げた。 「ぅあん」 可愛らしい嬌声に、思わず口元が緩む。 男からふっと漏れた息にも、少年の体はびくりと反応した。 「動くぞ」 少年の中で、ずくずくと痛いほどに熱を持つそれを、ようやくそろりと引いてみる。 その刺激は、少年以上に男自身を追い詰めた。 「「ん……っ」」 少年と男の声が重なる。 はじめはゆっくりと、次第に激しく、少年が男に突き上げられる。 「はっ……あっ……ああっっ!」 小さな体ががくがくと震える。 悲鳴のようだった声が、絶え間なく響く甘い声へと変わってゆく。 「う、ん、んっ、あっ、ああん」 その声に、男もまた限界へ近づいていた。 「ガ……ガドさ……あっ……」 何かを訴えようとしている少年に気付いて、男が動きを止める。 ベッドにうつぶせるようにして、腰を男に持ち上げられていた姿勢の少年を、男は自身と繋いだまま、器用にくるりと仰向けにさせた。 「ううんっ」 少年がその刺激に一瞬きゅっと閉じた目を開くと、少年の目の前には男の顔があった。 いつの間にか男の額にも汗が浮かんでいる。 男の頬を伝う汗は、まるで涙のようだ。 三白眼気味の黒い瞳、その上の眉は若干苦しげに寄せられていて、少年の金色の瞳には、男が悲しんでいるかのように映った。 少年は、真っ赤に染まった頬で男を見上げて、涙の混ざる上擦った声で尋ねた。 「……ガドさん……、淋しいの……?」 予想外の言葉に、男の瞳が揺らぐ。 ほんの少しの沈黙の後、男は自分を心底心配そうに見上げる金色の瞳に口付けて、その耳元で囁いた。 「ああ……お前が来るまではな」 少し熱くなった自分の頬を自覚しながら、男がそっと少年から身を起こすと、少年がふんわりと微笑んだ。 その拍子に、瞳にたまっていた涙が、ぽろりと零れる。 「僕と、一緒だったら……淋しくない?」 男は、零れた涙を優しく舐め取ると、耳元で「ああ」と答えた。 「っ……嬉しい……」 言葉を詰まらせながらも、極上の微笑を浮かべる少年に、男が口付ける。 「んっ……」 さっきは男の舌にされるがままだった少年が、躊躇うようにそろりと舌を伸ばしてくる。 その反応に、男の体が熱くなる。 少年の舌をゆっくり絡めとりながら、じわりと腰を揺らす。 「んんっ」 びくりと震える少年の小さな肩から首筋へと指を這わせて 小さく欠けた耳を弄びながら、 次第に強く、速く、男が少年へと自らを突き立てる。 「ん、んんっ……ん……っ」 口を塞がれたままの少年が、苦しげにうっすらと瞳を開ける。 柔らかな睫毛にくすぐられて、男が唇を離す。 「あっ、あっ、ああんっっあっっ」 自由になった少年の口から、切なげな声が零れた。 痛いほどぎゅっと男の腕を握り締める細い指からも、仰け反りガクガクと壊れそうなほどに揺れる体からも、体内から伝わる熱からも、少年の限界が近い事を感じて、男は一層愛を込めてその小さな体を追い詰める。 「はっ、あっ、ガドさんっ、僕……っ僕の……名前……呼んで……っっ」 息を継ぐその隙を縫って、叫ぶようにねだるその声に、男はまだ一度も、この少年の名を呼んだことがなかった事に気付く。 「シリィ」 口に出すと、途端に愛しさが溢れてくる。 「シリィ、シリィ……っっ」 溢れる感情のままに小さな体を抱き上げ、狭い胸に顔を埋める。 「んっ……あっ、ガドさんっガドさ……んうぅっ」 それに応えるように、少年も必死で男の名を呼んだ。 「……っ!!」 瞬間、男の想いが、少年の体内で弾ける。 「あっ! あああっああああああああああ!!!」 大きく仰け反り、涙の粒を散らしながら 跳ねる様に体を震わす少年を、男はひたすら愛しく抱きしめた。 「は……、ぁ……。……ん……っ」 ビクビクと揺れた少年の体から、徐々に力が抜けてゆく。 少年は、愛しい男を体中で感じながら、重いまぶたをゆっくりと閉じる。 酷く疲れた体にはまるで力が入りそうになくて、急激な眠気が少年を襲う。 「ガドさん……僕……眠っても……いいかな……」 男は、いつの間にか敬語の抜けた少年に苦笑を浮かべつつ、なるべく優しく返事をする。 「ああ、ゆっくり眠るといい」 男は用意しておいた濡れタオルで少年の体を一通り拭いてやると、手早くシーツを取替え、少年をベッドの中央に横たえる。 くったりとしたままの少年が、眠くてしょうがないようなとろんとした瞳をなんとか開いて礼を告げる。 「ありがとう……」 「……それは、俺の台詞だよ」 小さく呟いた途端、男はなぜか泣きそうな気持ちになった。 「ガドさん……あのね」 少年が、目を閉じたまま話しかけてくる。 「なんだ?」 自身の身支度を済ませて、ベッドの中、少年のすぐ隣へと男が滑り込む。 「僕もね……ほんとは淋しかったんだ……」 ぽつりと。 僅かに震える声で少年が呟く。 それは、男に向かって話していながら、少年自身にも向けられた言葉だった。 (僕は……お父さんとお母さんが死んで……本当は悲しくて淋しかったのに。今もまだ、淋しくてしょうがないのに。ただ、それを忘れたフリしてただけなんだ……) 今までどうしても認められなかった事実が、少年の心の中にすとんと振ってきて、音もなく綺麗に納まった。 それは、ずっと目を逸らしていた、見たくない事実だったにもかかわらず、今少年の心に波はなかった。 「……分かってるよ」 すぐ横から、男の静かな声が返ってくる。 そこで、少年は気付く。 今、自分がこんなに楽な気持ちになれたのは、この男のおかげなのだと。 「ガドさん……。ずっと、一緒に居てくれる?」 目を閉じたまま、男の腕に両手を絡めてくる少年を、男はじっと見つめる。 少年は既に夢の中へと入りかけているのか、中々返ってこない返事を気にする様子もない。 真剣な眼差しで、その横顔を見ていた男が、二、三度瞬きをした後、慎重に口を開く。 「……ああ。お前が、俺の事をもう要らないと言うまで。俺はお前の傍に居るよ」 そこまでを口にして、男は心の中で続けた。 (だからお前は、お前の思うように生きてほしい。どうか俺に、縛られてくれるなよ……) これから少年は、成長してゆく。 そのあどけない顔も、体も大人になり、好きなものも、好きな人だって変わるだろう。 こいつの考え方が変わってゆく様を、俺は責めずに見守れるだろうか。 「……っ」 耐え切れず、男は少年の髪に顔を埋める。 (もう二度と、大切な人を失うのはごめんだ……) けれど、この愛しい少年との関係は、一生続けられるような物ではないという事も、男には分かっていた。 彼女を失って以降、呪ってばかりだった存在へも 今は縋るような気持ちだった。 きつく目を閉じて、男は祈る。 (――どうか、今この時が少しでも長く続いてくれるように……)
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