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ベッドの上。俺の目の前に座り込む小さな少年は、大きな瞳に涙を溜めたまま、
まるで熱でもあるかのような上気した頬と眼差しで俺を見上げていた。
待て待て。待て待て待て。
それは無いだろう。いくらなんでも、それは無い。
……だろう……??
頭では、自分が、まさか、無意識のうちに? こんな小さな子を、そんな、無理矢理襲うような真似はしないだろう。と、『ありえない』と判断するにもかかわらず、
目の前で小さく蹲った少年の、なにかこう尋常でない視線を受けると、その判断が果たして本当に真実なのか分からなくなってくる。
その潤んだ瞳を見つめていると、少年が小さく身じろぎして、恥ずかしそうに俯いた。
パジャマ代わりに貸してやった俺の白いシャツ越しに、少年の肌がうっすら染まっているのが見える。
どうしてそんなに赤くなる必要がある。
俺が、何をしたって言うんだ!!!
頭が擦り切れそうなほど可能性を探しても、俺の顔を見て赤くなるなんて、俺と何かがあった以外には考え付かなかった。
今にも思考を停止しそうな頭を抱えて、恐る恐る問いかける。
最悪の答えでない事を祈りつつ……。
「あの、さ、俺、どんな事したか……その、覚えてるか?
いや、その、言いづらくない事だけでいいんだ……が……」
戸惑うような金色の瞳が俺をもう一度見上げる。
躊躇いがちに口を開いて、一度閉じ、きゅっと強く結んだ後、少年は震える唇を開いた。
その姿に、答えたくない答えを、言いたくない言葉を、俺が少年に無理矢理吐き出させようとしている事実を付きつけられたようで、急に罪悪感が押し寄せる。
「い、言いたくないならいいんだっ!!」
慌てて、その今にも壊れてしまいそうな少年の両肩を掴むと、跳ねるように少年が顔を上げた。
一瞬、俺と目が合い、動揺したように視線を逸らした後、なぜかこつんと、俺の肩に額を押し当ててきた。
……どうしてこうなる?
もし俺が、こいつに何か酷い事をしたんだとしたら、こいつはもっと俺に怯えたりするもんなんじゃないのか?
俺の頬を少年の淡い金の髪がくすぐる。
その僅かに甘い香りに、俺はまた彼女の後姿を見る。
そうだ……。
俺は昨日、確かに、彼女の夢を見た。
いつもの、彼女を見送る夢ではなく、
泣いていた彼女を慰め、愛を確かめ合う、とても幸せな夢だった……。
と、脳裏にくっきりと夢の映像が蘇る。
そこへ、少年が震える声を振り絞るようにして、俺の首元で囁いた。
「その、僕の涙を……ガ、ガドさんが……拭いてくれて……」
それは、今思い出したばかりの映像とぴたりと重なる。
「……どうやって、だ……」
「……っ……」
俺の問いに一瞬息を詰まらせる少年の、熱い息が首筋にかかる。
瞬間、背筋をぞくりと熱い何かが駆け上った。
なんだこれ……。
まさか、俺は昨日もこんな気持ちになって……それで、こいつを……?
少年の細い肩をすっぽり包んでいた両手に、知らず力が入る。
「痛っ」
小さな悲鳴に、慌てて両肩を話す。
「すまん、ちょっと力が……」
支えを失った少年が、ほんの少しよろけて、俺の胸に寄りかかる。
それは、確かに昨日愛しく抱いた温もりだった。
俺は、今まで否定ばかりを繰り返していた自分の中に、否定できない何かを見つけて、少年に問う。
俺が間違っているならそれでいい。
いや、むしろ否定してくれ!!
「なあ、俺は……、お前の涙を、舐め取ったのか?」
少年は、俺の胸に顔を埋めたまま、小さく頷いた。
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