四週目 ダンサーと缶チューハイ

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2  おかしい。  もう夜の八時になるのに、タカヒロがやってこない。  こんなことは今まで一度もなかった。二人の関係が良好だったときはもちろん、喧嘩をしてるときでも彼は毎週土曜の夜はここにやってきたのだ。  よほどの用事でもない限り。  だから私は、彼と付き合ってからというもの、土曜の夕方までは予定を入れることがあっても、自然と夜は空けておく習慣がついていた。彼に不信感を抱いてからも、それは変わらなかった。  もちろん、急遽彼に予定が入ったりとかして来れなくなることもあったが、そのときは前もって夕方くらいまでに連絡があった。私も同様のときは彼に連絡するようにしていた。それは合鍵を渡してからも続いた。  だが、今日はその連絡すらもない。今の二人の状態では、その必要すらなくなったということなのか。  たしかにそうかもしれない。片方はナイフを相手に突きつけ、もう片方は相手の全裸画像を突きつけておきながら、予定のキャンセルをわざわざ連絡するというほうが違和感がある。  そうだ、そうに違いない。彼は彼で、もう私に見切りをつけ、新しい次の犠牲者を捕まえようとしているんだ。  よかった、これからは毎週あの地獄のような愛も快感もないセックスをしないですむ。  よかった、今日は思うがままに羽を伸ばせる。  だが、その思いとは裏腹に、どこか窮屈さを感じている自分もいた。できれば信じたくはなかったが心がそう言っていた。
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