四週目 ダンサーと缶チューハイ

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4  正木くんとの夢のような時間は、あっという間に終わった。  個人で話すことは中々叶わなかったが、少なくとも次に繋がる一日にはなったはずだ。やはり最初から二人きりというのは、ハードルが高いし、私は苦手だ。だから最初は何人かで集まって、その次から二人で遊ぶというのが理想なのである。  気を付けなければいけないのは、次も皆で遊ぼうということにしないこと。自分から誘うときは、「次は二人で」ということを強調し、相手から皆で遊ぼうと言われても、「二人で遊びたい」と自分の希望を言わなければいけない。たしかそれは牧瀬先輩から聞いたことだ。    そうしないと、ダラダラと友達関係で留まってしまったり、後々振られる際の「友達としか見れない」だとか「妹にしか見えない」という、断りやすい言い訳を渡してしまうことになるらしい。  サチともさっき別れたところだが、「よくも、俺様系ダンサーが来るって嘘ついてくれたわね」なんてことは言わずに、陽気にほろ酔いで帰っていった。本当に酒に救われた。  俺様系ダンサーどころか、彼女持ちを連れてきてもらったのだから、本来はサチにどやしつけられても仕方ない案件である。色々思うこともあるが、彼女がサッパリした性格でよかった。サッパリというか、途中からは俺様ダンサーのことなど忘れていたのだろう。  ともかく、今夜はいい気分で眠りにつけそうだ。昨日はタカヒロも来なかったし。  心でスキップしながら、私は家のドアを開けた。嫌な予感がする。  しかし、玄関の床を見ても、タカヒロの靴はなかった。肩をおろし、鞄もおろす。   さぁ、明日からまた仕事か。  また来週もまた同じような一週間が始まる、と思っていた先週までとは気分が全く違う。  今夜のことを誰に言おうか。と言っても、このことを言えるのは、サチ以外では牧瀬先輩と真中先輩しかいない。  真中先輩にこの充実模様は刺激が強すぎるだろう。やはり、まずは牧瀬先輩に話そうか。  いや、まだ正木くんと自分を含んだ四人でお酒を酌み交わしただけなのだ。真中先輩に言っても問題ないだろう。問題は、そんなことで異様な期待感と達成感が湧き出ている私の荒みきっていた心かもしれない。    三年前、タカヒロと初めて遊んだ日の夜も、こんな高揚した気持ちだったのだろうか。  以前より広く感じるベッドの空きスペースを眺めてふと思った。  私は何とも言えない気持ちで、珍しく買った缶チューハイのプルトップを開けた。
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