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薄暗がりの部屋。リュックを漁り、正木くんに会計をしてもらったコンドームをタカヒロに渡す。
なんか、それが悔しくもある。私と正木くんの共同作業で手に入れたコンドーム。いわば逆説的なことだけど、これは二人の子供。それをこんなセックスのためだけに私と延命交際をしている男に渡さないといけないなんて。まぁ、私も同類なわけだけど。
受け取ったタカヒロが動く気配がなかったので囃し立てる。
「お金は?」
「あぁ……」
めんどくさそうにタカヒロは財布を取りに行った。彼はこういうとき、毎回いちいち催促しないとお金を支払わない。私が大家だったらこんなモラルのない住人、即刻出ていってもらってる。問題は、私が大家じゃないということ。
「はいよ」
タカヒロは、なけなしの千円札を私に渡す。千円を超えてる可能性を考えて私に二千円渡して「残りは好きなコンビニスイーツでも食べな」くらい言えないのだろうか。言えないのだ。それがこの男、大槻貴大だ。
「釣りは?」
ふてぶてしく言い放つ彼に圧されて、私はお釣りの一二三円を渡すために財布を取りに行く。
「いや、いいよ。百円くらいだろ。冗談、冗談」
じゃあ、最初から言うな。なにが冗談だ。お前の冗談なんてこの三年くらい聞いてないぞ。呆れて、小さくため息を放つ。
思えば三年前はよく笑った。正直、タカヒロの冗談は素人目にみても面白くなかった。でも笑った。そのくせ、自分では自分のことを面白いと思っている男だった。だから、私は笑った。嘘でも笑った。人気のないところなら特に思い切り笑った。でも、それで良かった。それが楽しかった。
今ではそのまるっきり面白くない冗談を聞かなくなった。月日が彼に、自分は面白くないということを気付かせたのだろうか。
だが、代わりにテレビで芸人が出ているとよく、「こいつら、全然おもんないよな〜。なんで売れてるんやろな〜」とぼやく。
お笑いを語るときだけ、タカヒロは関西弁になる。意味不明。ちなみに私からしたらその芸人は全然面白い。面白くないことを堂々とやる、面白さの奥深さをタカヒロが知らないだけだ。
というより、彼は自分より年下の男は基本的に認めない。野球選手くらいじゃないか、年下でも認めるのは。
たぶん、自分がちょっと昔かじってたから、トップレベルの凄さくらいはわかるのだろう。もしくは、わかっていなくても、あの若手の凄さをわかっている俺は凄いという、客が私しかいない一人コントをやっているのかもしれない。
結局私は、彼に見初められたその若手たちがその後華々しく活躍しているのを誰一人見た試しがない。それもまた奥深い笑いだ。
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