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「あっ、あっ、あっ……」
今週も私は、相変わらず大して気持ちよくもない彼の単調な腰の動きに、演技で応える。
あれから一週間。あちらも変わらないが、こちらも変わらない。
しかし、なぜあんなことがあったのに関わらず、この男はまた何食わぬ顔でここに来れるのだろう。同じひとときを過ごし、私の服を脱がし、ことに及ぶことができるのだろう。どういう神経なんだろう。そして、それを当たり前のように受け入れている私は何なんだろう。
やっぱり、私にはこの男がお似合いなのだろうか。正木くんは高嶺の花なのだろうか。正木くんから見れば、私はハズレの部類なのだろうか。
そんな淡く哀しい考えを想いながらも私は、この男の愛のない突きに耐える。顔を見る。暗闇でよく見えないが独りよがりな顔をしている気がする。私はいつまでこの男の独りよがりに、身体を委ねないといけないのだろうか。
「そういや、ここから逃げなかったってことは、やっぱり怖いのか? 裸をばら撒かれることが」
黒い球にしか見えない男が言った。
「それとも……結局、俺が忘れられないのか?」
何を言っているんだ? この黒い球は。
「おい、なんか言えよ。ばら撒くぞ」
「え、ばら撒かれるのが嫌なだけだよ」
つい、彼を刺激してしまうことを言ってしまう。
「嘘つけ。一丁前に感じてるくせに」
駄目だ。どうして、こんなやつと付き合ってしまったんだろう。バカだ、二十二歳のときの私は。就職も無事決まって、大学も単位が取り終わった卒業前で、気が抜けていたのかもしれない。だからバイトの先輩だっただけのこんなやつに誘われて、ホイホイついていってしまったんだ。
今、タイムマシンがあったら三年前に戻って、あいつの嘘の優しさに騙されて、好きになりかけてる私を止めたい。どこで売ってるのか見たこともない、可愛いだけのクッキーをもらっただけで「優しい先輩」認定なんてするんじゃない、って。だいたいこの濃い顔でクッキーだなんて配るなよ。似合わないんだよ。
それに引き換え、正木くんはクッキーがよく似合う顔だ。あとランドグシャとか、フィナンシェとか。
そもそも、そんな爽やかで学生時代も女子に人気だったし正木くんに、私みたいな大してルックスもよくないし、仕事も決してデキるほうではなくて、髪も朝起きたらパサパサで、男性経験が少なくてひねくれてる私なんかお似合いじゃないのよね。
はぁ、なんだか自信なくなってきたな。私に寄ってくるのはこんな男くらいだし。
まぁ、でも明後日の月曜日には仕事終わりに真中先輩と約束をしている。
そこで取り戻そう、自信を。
私はまた目を閉じて、不本意にも身体をまた委ねた。
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