三週目 グミとカニカマ

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三週目 グミとカニカマ

1 「おはよ」  牧瀬先輩が少し眠そうな手をこすりながら話しかけてきた。 「おはようございます」  先週、先輩の言った通りに早速ドルチェリーナに行ったら、初日の火曜で正木くんに会えたことはもちろん伝えた。先輩はかなり驚いていた。きっと提案した自分でも、そんなにうまくいくとは思っていなかったのだろう。  だが同時に私がそのとき、ひよってしまい、ろくに喋れなかったことも伝えるとさらに驚いていた。 「えー、せっかく会えたのにどうして誘わないのよー! 連絡先も聞けなかったの? いくらでも理由あるでしょー、友達巻き込んで皆で遊ぼうとか、したくもないだろうけど同窓会企画しようとか、同窓会なんて大方、幹事の男女のくっつくきっかけみたいなものなんだから」  たしかに先輩のその考えは私と似てるのだが、違うのは私には実行力がなかったことだ。 「えー、もったいないよ。次なんて、いつ会えるかわかんないんだよ」  本当にそうだ。それこそ、意を決してもう一度彼の働いているドラックストアに赴かないといけないかもしれない。そうすると、レジで誘ったり、品出し中の売場で誘わないといけないのでさらにハードルは高くなる。 「本当にもったいないわ、私ならそのとき即飲みにでも誘うけどね」  基本は優しいのだが、たまに牧瀬先輩の世話焼きなところは少し面倒になる。彼女は自分指標でしか考えないから、こちら側の人間の気持ちがわからないのだ。 「おはよ」  牧瀬先輩と逆隣のデスクに、真中先輩が大きな身体を揺らせながら来た。同じ台詞でも印象が全く違う。手には、いつも何が入ってるのかわからない大きな鞄。 「おはようございます」  私は挨拶をするとともに「今日はよろしくお願いします」という顔をした。  今日の仕事終わりは、約束通り真中先輩とご飯に行くのである。こういう自分に自信をなくしているときは、牧瀬先輩のような人生の勝ち組タイプと喋るより、真中先輩と喋るに限る。真中先輩と喋っていると楽しいというよりは、なんだかホッとするし、ジワジワと自信が湧いてくるのだ。なんか、失礼な話だが。  真中先輩は大きな鞄からグミを取り出した。一粒口にする。なぜ、牧瀬先輩と同じようなお菓子を食べているのに、ここまで体型が違うのだろう。  疑問に思っていると、真中先輩が「一ついる?」と訊いてくる。せっかくだが私は遠慮した。それが、先輩のようにはなりません、という意思表示な気がして、少し申し訳なく思った。
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