――知恵の塔と壊れた時計――

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――知恵の塔と壊れた時計――

 多彩なガラスによって十二種の獣の印が描かれた巨大な時計の文字盤が四方を囲う時計塔の内部……。  文字盤の周囲を大小さまざまな歯車がとりまき、高い天井には巨大な鐘が五つ吊るされている。文字盤のガラスから()の光が差し込み、そこは薄暗くも、幻想的な輝きに彩られていた。  ――そこに、一人の少女がたたずんでいた。  表情の乏しい人形のような風貌に、古風だが可愛らしい服装は、その場の風景に溶け込み、奇妙なほど少女を神々しい存在にしていた。まるで、出来過ぎた一枚の絵画のように。  なにより奇妙なのは、少女が見あげているもの。宙に浮いたそれは、壊れた時計。少女の背丈よりはるかに大きな時計は、無数の歯車が剥き出しになっていて、長針も短針も動いていない。  少女はその壊れた時計を、無表情に見あげていた。  カタン……カタン……。ゆっくりとした調子で動くのは、四方の壁の時計。やがて、ガタン……と、重い音が混ざると、頭上の鐘がけたたましくなりだした。  少女は、そっと目を閉じ、鐘が鳴り止むのを待つ。  鐘が鳴り止むと、今度は足音が響いてきた。少女は目を開け、鉄の欄干の先にある階段を振り返った。しばらくして、白いマントに身を包んだ女性が現れた。 「時間通りですね」  酷く大人びた口調で少女は言った。彼女の言葉に、白マントの女性は苦笑を浮かべ、かぶっていたフードと後ろに落とした。白い髪が背に垂れ、白銅色の瞳とともに光を反射して輝いている。  エウメルド神族の一柱――(えん)を司る運命神レアルタは、少女の背後にある壊れた時計を見あげた。 「また、それを見ていたのかい? 相変わらず物好きだね」  別に、と少女は素っ気ない声で言って、時計に視線を戻した。 「好きで見ていたわけではありません。なぜなのか考えていただけです」  レアルタは首をかしげる。少女は言葉を継いだ。 「この時計は修復され、もうどこにも異常はないはずなのに、針はおろか、歯車ひとつ動きません。その理由がわからないのです」 『ディルラハールの世界時計』。それが、この壊れた時計の名称。
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