透明な鳥

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 今年大学一年生になった自分は漠然と日々を過ごし、本のページをめくるように時間が過ぎ去っていった。  そもそも、自分は特にやりたいことも夢もなく、ただ進学校出身なばかりに適当に入れそうな大学へと成り行きのまま進学したに過ぎない。  だからいつも楽しいこともなければ辛いこともない。虚無な抜け殻の如く生かされているも同然であった。  否応なくやって来る朝に目を覚まし、今日も何事もなく一日が終わる。そう高を括っていたのが高慢だと思い知ることになる。  大学の講義も終わり、日が暮れ始め、アパートに帰宅しようと帰路の途中、小学生くらいの少女とすれ違った。その手には鳥籠を持っていた。  生憎、自分に少女趣味は皆無である。気に留めることもなくその日はスルーした。  だが、その日からほぼ毎日――大体午後四時半から五時の間にその少女と遭遇した。  地元の小学生だから当然だろうと思ったが、それ以上に気になることがあった。少女は常にその手に鳥籠を持っていた。その中には鳥など一羽も居なかった。  ある時、自分は意を決して少女に質問をしてみた。 「君、毎日鳥籠を持っているけど、中に鳥はいないのかい?」  すると少女は首を傾げて鳥籠を覗き込んだ。 「何言っているの、お兄さん。鳥さんならずっと入っているわよ」  今度は自分が首を傾げた。 「いや、鳥なんか入っていないじゃないか。もしかして君は……」  自分は思わず感情的になっていたので、慌てて口を(つぐ)んだ。 「そう。お兄さんには見えないんだね。運がいいんだね」  意味深なことを言うと少女はそのまま立ち去ってしまった。
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