透明な鳥

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 それからというもの、夕方の時間帯に少女とすれ違うことは何度かあったが、ある日を境にパタリと姿を見せなくなった。  普段見掛ける人物が突然見掛けなくなると、不意に心配になるが、だからと言って自分はあの少女と親密なわけではないから変に首を突っ込むのは止した方がいいだろう。  だが、それから数日後にふとテレビのニュースを見ていると、あるニュースに目を奪われた。  それは、この近隣で起きた謎の死亡事件であった。現場は自分の住んでいるアパートから数百メートルしか離れていない公園で小学生女児の遺体が発見されたという。  近隣で随分と物騒な事件が起きたと驚きを隠せなかった。まさかあの少女ではないかと妙な胸騒ぎを覚えたが、それを裏付けるような詳細な情報は報道されなかった。  それからというのもの、しきりに近所でパトカーやマスコミ関係者を見かけ、騒々しさに辟易しそうであった。  今日も講義を終え、帰路につく。アパート付近まで来ると、鳥籠を持ったあの少女の姿が見えた。少女はそのまま二階へ続く階段を上がって行った。 「あ、ちょっと待って!」  自分の部屋は二階である。急いで階段を駆け上がって行ったが、奇妙なことに少女の姿はなかった。その代わり、自分の部屋の前に鳥籠が置かれていた。 「な、何故これがここに……」  恐らくあの少女が置いただろうが、肝心の少女の姿が見えない。二階に通じる階段があるのは一つしかない。奥に隠れるスペースも無ければ、飛び降りるのも無理がある。 「まさか、幽霊なのでは……」  考えただけで背筋が凍りそうだが、そう考えれば辻褄が合う。  とにかく自分は鳥籠を持って部屋の中へと入った。  鳥籠はその辺に置いておき、自分はすぐさまベッドへ行き、そのまま眠りこけてしまった。  カタカタと何か物音が聞こえ、ふと目を覚ました。時刻は夜中の一時が過ぎた頃だった。  音の正体を探ると、あの鳥籠の方から聞こえた。明かりを点けて確認すると、鳥籠の中で何かが動いているように見えた。  よく目を凝らして見ると、透明ながら薄らと輪郭のようなものが見え、まるで鳥の如く翼をはためかせているように見えた。 「透明な鳥だと。いつの間にそんなのが……」  この時、ふと以前見たサイトに書かれていた『透明な鳥が見えるとすぐに死ぬ』という文章を思い出した。 「そ、そんなもの適当な作り話だ。子供騙しの下らない怪談だ」  自身を安心させるように言い聞かせる独り言を呟いたのも束の間、背後に恐ろしい気配を感じた。  戦慄しながら振り返った。そこには……。  その先からの記憶は無い。それもその筈、自分はその後惨殺死体となって発見された。あまりにも不可解な密室殺人ということで迷宮入りしたのは言うまでもない。
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