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何も無い灰色の世界が広がる。自分は自分の意思に関係なく飛ぶように進んでいた。
考えること、認識することは出来る。だが、それについて何かを決定する権利が無いことに気付く。抗おうにも止まることは無く、声を出そうにも出すことは出来なかった。
悶々としていると、突然目の前に隕石のような物体が宙を舞っていた。その表面は鏡のようになっており、ふと覗けば今の自分の状態が客観的に分かる筈だ。
自分はすれ違いざまに覗いて見ると、鳥の様な輪郭が微かに見える透明な物体とそれに運ばれる白い靄のようなものが映った。
それを見て自分は驚愕した。
つまり、今の自分の姿というのがこの白い靄のようなもの――確証は無いが、所謂魂の状態なのだろう。生前の自分は既に死に、魂となってあの世に運ばれている途中だとこの時に悟った。
天国へ昇るか地獄へ落ちるか。生前の自分の行いを顧みて、天国へ昇るほどの善行を積んでなければ、地獄へ落ちるほどの悪行も重ねていない。
こういう場合はどうなるのか。自分は何かの宗教を熱心に信仰していないのでよく分からないが、なるようにしかならないだろうと腹を括った。
すると突然急降下し出した。
物凄いスピードで下降するが、いつになっても地面が現れない。かなりの高度を飛んでいたのだろうと考えていると急にスピードを緩めた。
一体何を企み、目指しているのだろうと疑問を抱いていると、飛んで行く先に漆黒に塗り潰された少女のような影が現れた。その手には鳥籠を持ち、誘うように掲げていた。
見覚えのある影である。
しかし、自分にとって不都合な事実なのか、全く思い出せない。
そのまま鳥籠に吸い込まれるように中へ入って行った。
鳥籠の中は何も見えず、何も聞えず、何も感じない、何も無い闇の中であった。
中へ入った瞬間、認識する間もなく自分は無に還った。透明な鳥が鳥籠の中へ入ったのもそこが帰るべき場所であるのと同じように、こうなる運命は既に決まっていた。
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