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時間こそ安寧をもたらす唯一の万能薬。どれほど凄惨、どれほど謎めいた事件が起きたという事実も長らく時が過ぎれば人々の記憶から忘れ去られる。それと同時に周囲の景色も変化し、その面影さえ跡形も残らなくなる。
嘗てこの町で起きた事件現場近辺は大規模な土地開発の影響で今は新興住宅街に変貌しており、そこで過去に凄惨な事件が起きたことを知る者は存在しないも同然であった。
この新興住宅街には一か所だけ不自然に空き地となっている場所がある。そこには奇妙なものが置かれていた。それは鳥籠で、長年放置されていたのか、格子は錆びついて使い物にならない状態であった。
誰もこの鳥籠に興味関心を示さなかったが、ただ一人、この鳥籠の中に鳥がいると言い回った子供がいた。
周囲の人々はおかしな子供だと一笑に付して相手にしなかった。
暫くしてその子供はパッタリと姿を消した。どこへ行ったかは定かではないし、誰も然るべき対応を取ることもなかった。
時が経つにつれて人々の間で怪しい噂が不文律の如く囁かれ始めた。
――決してあの鳥籠を覗いてはならない。その中にいる透明な鳥を見た者はこの世の者ではなくなる。
尤も、この噂を知る者は既に一人残らず絶えているので、真実か否かなど誰も分からないのである。
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