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「戻りました」と、一声かけると、佐々木さんは振り返らず、鍋つかみのフキンを了解という風にふった。佐々木さんはこのカフェに大学時代から勤務している、バイトリーダーだ。社員を除けば、ここのバイト先では1番の年長で、頼りになる存在だ。常に厨房の中を縦横無尽に動き回り、指示出しからレジ打ちまで、大抵のことはそつなくこなす。2店舗、掛け持ちでたまにしか顔を出さない社員が高圧的な態度で誰かに当たっている時も、うまく間に入って、庇ってくれる。佐々木さんがいなければ、この店を回すのは不可能だ。仕事の面に関しては、本当に頭が下がる。 5時を過ぎて、少し店が混み始めた。食事もディナーのメニューにいれ変わり、ちらほらと通りから駅に向かう会社員の姿も見えだした。 また、チリンチリン、ドアベルがなる。客の入ってくる合図だ。ちょうど、入り口は柱の影になって厨房からだと見えづらい。この音を聞くと、フォークやスプーンの入った太い麻で編まれた籠とおしぼりをホールに繋がった窓に置く。
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