2、タイミング

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「えっと、南館二階の203号室……あ、ここか!」  教室に入るとすでに講議を受ける学生がちらほらと席に座っている。その中に、彼もいた。挨拶をしようとしたとき、講議が始まる鐘の音が鳴った。彼に声をかけることもできず、私は前の席に着いた。担当の坂口先生がやってきて講議は始まった。  この講議を受ける人数がほかの講議よりも人数が圧倒的に少なく、十人と少ししかいない。そのため、先生の自己紹介が終わってからこの講議を受ける人も軽い自己紹介をした。どんなジャンルの作品を読むのか、あるいはどんな作品を書いてみたのか、など。創作に関係する自己紹介をしてからこの講議の進め方について先生は話し始めた。 「前期の講議をかけて一つの作品を作ってもらいます。とりあえず来週までに作りたい作品のジャンルや世界観を考え、レポートとして提出してください。そこからじっくりと細かい設定などを考えていきましょう。それを大体三週かけて取り組み、その後物語の流れについて考えることを二周。そして文章を書き、最後の三週前には誤字脱字の修正や手直しをし、この講議が終わる頃に皆さんの作品を文集として一冊の本にまとめる、こんな感じの流れになります」  先生の話を聞きながらルーズリーフに講議の流れを書いていく。十五週の間にたくさんの作品を作るのかと思ったけれどじっくり時間をかけて作品を作れることに頬が緩む。どんな作品を作ろうか、とルーズリーフに書いてみたいジャンルをすらすらと書いていく。いい先生と出会えたなと思っていると先生は思い出したかのようにそうそうと言葉を続ける。 「作品を作っている最中で悩んだり、困ったこと、相談したいことがあったらいつでも私の研究室に来てください。あ、レポート提出はクラスルームの創作のところに作っておきますので、そこで質問するのでもいいですよ」  その言葉に思わずペンの動きが止まる。うん、この先生とてもいい先生。一年の時の先生はこんなこと言ってくれなかった。この講議を取って良かったと心の底から思えた瞬間だった。
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