2、タイミング

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 講議が終わり、教室を見渡せば彼はいなくなっていた。講議が終わってすぐに駅にむかったのだろうか。帰る電車の時間にはまだ余裕がある。大学から駅までの大学直通バスを待っている人の中にも彼はいなかった。バスに乗っている間、早く駅についてほしいと願った。彼と会う約束はしていない、けれどなぜか駅のホームに彼がいるような気がして。バスを降りて駅まで小走りし、改札を抜け、階段を上がって駅のホームに行くと……。 「いた……」  会談の近くにある柱に寄りかかっている香月君を見つけた。少しだけ歩くスピードを上げて彼に近づく。 「香月君、お疲れ様です」  声をかけただけなのに心臓はバクバクと音を立てている。走ったから、急いだから、こんなに心臓がうるさいのだと自分自身に言い聞かせる。 「柴崎さんもお疲れ様。あ、これお土産なんだけどあげる」  ふにゃりと笑いながら香月君は小さな袋を私に渡してきた。 「どこか、いってきたんですか?」 「うん。火曜日に大学終わりに日光行ってきた」 「へ……?日光って、あの、東照宮ですか?」 「その東照宮」  何事もなかったのように凄いことを言った彼。開いた口が塞がらないとはこのことか。火曜日、お昼の講義が終わり、時間があるからそのまま日光に行ったのだとか。確かにもらったお土産の袋には東照宮と書かれたシールが貼ってある。 「凄い、行動力ですね」 「行きたいなーと思って行ったんだけどもう大学終わってから日光行かない。めっちゃ歩くし、疲れた」 「それは大変?だったね。今度どこか行くなら近場にすればそんなに疲れないのに」  さっきまで緊張してたのに。ついさっきまで敬語、だったのに。不思議なことに一瞬だけ敬語が抜けた。このままの勢いであの時言えなかったこと、言わなきゃいけないことを口にした。 「あ、あの香月君。連絡先、交換しませんか」
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