2、タイミング

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 その言葉を言った瞬間に言えたという安心感が出た後すぐに急に心拍数が加速していく。もし、もしも「交換しないよ」という言葉が来るかもしれないという不安がやって来たから。内心で焦っている私の考えは彼の言葉一つで解決する。 「いいよ、交換しよ。俺もこの前聞くの忘れてたわ」  連絡先交換したつもりでいたわー、なんていう彼の言葉を聞いて嬉しくなる。香月君と話すのは二回目なのに不思議と落ち着いていた。いつもの私なら緊張して空回りしてるのに。不思議なこともあるものだな、と思っていた。  絡先を交換し、電車が来るまでの約十分の間、彼が行ってきた日光の話を聞いていた。  電車が来て、乗車してからも会話は途切れることなく、私が乗り換えの駅で別れるまで続いた。乗り換えの駅で別れ、私一人になったと同時に頬がゆっくり緩んでいくのが自分でもわかる。緩んだ理由は自分から彼に声をかけられたこと、連絡先を交換できた事実が嬉しかった。周りから見たらそれはとても小さな出来事に過ぎない。でも、私にとってそれは、大きな一歩だったのだ。  家に着き、お土産でもらった袋を開けて中身を取り出す。中に入っていたのは東照宮で有名な三部息のサルをモチーフにしたストラップ。スマホで「お土産ありがとう。大切にするね」と彼にメッセージを送る。するとすぐに既読がつき、クマのスタンプでOKと返信が来た。そのことが嬉しくてじわじわと胸が熱くなる。ストラップを家の中に置いておく気になれず、筆箱に付けることにした。  火曜日。  必修の講議を受けるため、教室で必要な教材を机に出していると隣に座っている桜花がストラップに気づいた。 「ここ、これ昨日までつけてなかった、よね?」 「ほんとだ。心音それどしたの?」 「これ、は……友達がお土産でくれたの」 「へぇ、その友達良い人、だね」 「後で友達に伝えておくよ」  笑いながらそう答えた。けれど、どうして私、二人に友達が香月君だと言わなかったのだろう。
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