21人が本棚に入れています
本棚に追加
4,近づく距離
四月の講議を終え、今日から五月の連休。
創作の二回目と三回目の講議は描きたい話の設定を細かく決めていた。世界線や人物設定等自分で考えて書いたものを発表しただけでもまだまだ詰めが甘いところがあったりした。先生から細かく聞かれた時には今まで聞かれたことが無かったことを聞かれたことに対しての新鮮さを感じていた。
そんな優しい世界とは裏腹に現実は厳しいもので……。
五月の連休に入る前の週に、出席している講議のほぼ全てから課題が出された。それもちょっとやそっとで終わる量ではない。
大学は休みでも課題の量が多いため朝早い時間に起きていた。朝ごはんも食べ終わり今は八時過ぎ。
「先生、五月連休って夏休みほど長くないのになんで沢山出してくるのかな……」
机の上にはとりあえずと出した教科書に参考書、そして課題を書き出されたルーズリーフが山のように置いてある。これだけ見てしまえばもう課題が終わったと思えるぐらいの量。視界に入れたくもないものを見ながら無くなっているやる気を無理矢理に引き出す。
「とりあえずすぐに終わりそうな課題は……漢文の白文から書き下し文に直すのかな。創作はすぐに終わると思うけど最後にやりたいな」
何度ついたか分からないため息を零しながら漢文の課題に取り組む。本来なら桜花ちゃんと恵理ちゃんの三人で課題をやる予定だった。分からないところがあったらすぐ聞けるようにと言っていたのだが、連休直前に二人の予定が合わなくなったため、今回はそれぞれで課題をやるということに。
問題を解き、ルーズリーフにサラサラと書き込んでいく。初めてから何分経ったか分からない頃にスマホが鳴る。メッセージの着信音ではなくて、電話の着信音。
「お母さんかな?」
机の隅に置いていたスマホを持ち、連絡してきた相手を見ないで通話のボタンを押す。いつものように「何か忘れ物ー?」と言おうとした声は「な」で終わった。いや、正確にはほかの声が出せなかった。だって、電話の相手がいつもと違う人だったから。
最初のコメントを投稿しよう!