彼氏の気持ち 彼女の気持ち

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「なんてね、冗談だよ。」 「そ、そうだよね、冗談だよね。」 「……いっちゃん、本当にありがとうね。休みの時は東京に遊びに来ることもあるかもしれないけど、もう会うこともないと思うから。」 奏大が私に手を差し出したので、私はそれを握って、彼と握手をした。 「頑張ってね、副支店長。」 「うん。支店長にはこの間出会ったんだけど、話も合うし、上手くやっていけそうな感じだった。」 「そっか、良かった。」 奏大はゆっくりと席を立ち、楢崎の方にも軽く会釈した。 「楢崎さんもありがとうございました。」 「いえ、俺は何も。あ、もし埼玉で家が必要になったら、うちの系列の営業所に行ってくださいね。そして、ぜひ楢崎の紹介ですとお伝えください。」 うん?楢崎の紹介? 「あー!!」 私は楢崎の方に走っていって、テーブルを両手でバンと叩いた。 「あんた、楢崎の紹介って言ってもらうことで、家が売れた時の紹介料をもらうつもりでしょ!!」 「えー?なんのこと?」 「惚けたって無駄!!」 本当にこの男は売上に関して抜け目がない。 「ははっ。二人は本当にいいコンビだね。」 奏大は笑みを漏らすと私に手を振った。 「じゃあね。俺が言うことではないかもしれませんが、楢崎さん、いっちゃんをよろしくお願いします。」 「心配しなくても、俺は雷が鳴っている時に彼女を一人にはしませんよ。」 楢崎はそう言って、自席から立ち上がり、奏大に一礼して、彼の後ろ姿を見送っていた。
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