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「た、単純なレシピ?」
「何を言ってるの?この不動産屋は。」という顔を美麗さんがしているが構わない。彼女の動画を何本も見て思ったのだ。
「確かにあなたの紹介するレシピは作りやすいです。でも、野菜を切ったり肉の下処理をしたりと言った段取りはいります。本当に仕事で疲れて帰ってきた時って、それすらしたくないんです。だから、コンビニに売っている物で済ましちゃおうって。」
「……。」
「でも、それが何日か続くと、コンビニの物を見ても食べたい物が分からなくなる。だから、ぜひあなたにコンビニや冷凍食品を使ったアレンジレシピを作って欲しい!!」
「アレンジレシピ?」
「例えばコンビニの鯖缶でアヒージョとか。」
「なるほど……ねぇ、他には?」
今までとは違う、「結婚するために家を探しているの。」と言っていた時とは比べ物にならないぐらい輝いた目で、私と楢崎を見る美麗さん。
「他にはと言われると……」
私は楢崎の脇腹あたりを小突く。何か言ってと伝えたくて。
「えーと……あ!こんなのはどうですか?冷凍餃子でピザとか。」
「いい!急なお客様のパーティーメニューにもなりそう!」
こうしちゃいられないと言わんばかりに、美麗さんは鞄を掴んで立ち上がった。
「私、帰る!家は……今はいらないわ。奏大くんもあなたにあげる。」
「えっ?ええーっ!?」
あげる!?私、別にやり直す気ないから。てか、奏大も私とやり直す気ないからね。
「それに私、やっぱりまだしばらくは好きなタイプと恋愛するわ。だって、男に振り回されている時の方が見返してやるって思えて、料理に熱が入るんだもん。」
何それ!?振り回されたい派なら相手は絶対に奏大じゃないんじゃないの!!
「じゃあ、お世話になりました。」
私たちは呆気に取られて「ありがとうございました。」すら言えずに、彼女の後ろ姿を眺めていた。
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