その日の朝

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「うちの子だよ」  いつの間にか近くに寄って来ていた夫が赤ちゃんのまだ伸びかけの固い感じに真っ直ぐな髪を撫でた。 「座敷童が来てくれたんだ」  鹿の子模様の着物に山吹色の帯を締めた赤ちゃんは目の前に出された夫の人差し指を小さな手で掴んだ。  その様を目にすると、こちらの口からも自ずと声がこぼれた。 「似てるね」  この子の大きな目は私に、真っ直ぐな固い髪は夫に似ている。 「どう呼ぼうか」  座敷童という一般名詞では無機的過ぎるので、この子だけの呼び名を付けたい。 「そうだな」  夫は赤ちゃんの小さな頬をつつきながら思案する顔つきになる。 「ワーちゃんにするか」  ワーちゃん、と夫はどこか悲しい笑いを浮かべて口にした。 「ワア?」  着物の赤子は聞き返す風に夫を見やる。  その小さな横顔にも胸を突かれつつ、差し出された夫の両手に鮮やかな着物に身を包んだ赤ちゃんを渡す。  朝陽の射し込むリビングで夫は新たに家に現れた子供を高く抱き上げた。 「君は座敷童だから、ワーちゃんだ」 「エヘヘヘヘ」  眩しい朝の光の中で赤子の姿をした座敷童は楽しげな笑い声を響かせた。
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