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家の外では
「雨降ってきちゃったか」
いつも行く近所のスーパー。
夫婦二人分の食品と日用品を買った後、帰るつもりが店に入る前には晴れていた空から無数の斜線を引くような雨が降っていた。
早くも濡れて所々に浅い水溜りすらでき始めた外の地面からは湿った臭気が立ち上って来る。
――パチリ。
――バサッ。
横から通り抜けていく他の客はこうなる天候を予期して持参したらしい長傘やら普段から持ち歩いているであろう折りたたみ傘やらそれぞれ広げて出ていく。
――パツッ。
――バサバサ。
各々の傘をさして新たに店に現れた客たちも自分のすぐ脇で閉じて入っていく。
目の覚めるようなキャンディーカラーの長傘、小振りで地味な紺の折りたたみ傘、見るからに安手の透明なビニル傘。色も大きさも様々だが、他の人たちは自分の傘を持っている。
自分だけが傘を広げるか閉じるかの二つの流れの中で取り残されたように感じた。
店の奥に引き返してしばらく行かなかった二階へのエスカレーターに乗る。
傘や長靴、レインコートの類はそちらに売っているのだ。
うちに置いてきた傘もそろそろ古くなってきているから、この際、新しいのに買い替えよう。
そんな思案をする内に、ここ二年余りでもはや靴と同じレベルに外出の必需品になったマスクを着けてエコバッグを下げた自分の姿がエスカレーター周りの壁に備え付けられた鏡の中に無数に映し出される。
服はちょっと買い物に出る時のだらしなくは見えない程度の物だし、別に顔や体型が大きく変わった訳ではないが、座敷童がうちに現れてからほんの少しだけ若返った気がする。
そもそもちょっと前まではこんな風に鏡を眺めるのすら嫌だったのだから。
鏡の向こうにいる無数の自分がふっと微笑むのを見返しながら、立ち位置がゆっくりと斜めに上昇するに任せた。
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