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「マンマ」
横から飛んできた声に思わずドキリとして振り向いた。
「マンマ!」
若草色の野球帽に黄色いシャツ、紺色のデニムのハーフパンツを履いた、しかし、足にはグレーの靴下を履いたきりの一歳くらいの男の子が赤い目をして叫ぶ。
色の浅黒い、細い目をした面影には覚えがあった。
「大丈夫?」
この子が呼んでいる相手は自分ではないが、呼び掛けずにいられない。
怖がらせないようにゆっくり近付いて屈み込むと相手は鼻を啜って訴えた。
「マンマアア」
本当に探している相手は目の前にはいないという悲しみを最大限に込めた訴えだ。
「お母さん、どこ行っちゃったのかなあ?」
周りにもそれとなく聞こえるくらいの声で語りかけながら見回すが、この子と互いに探し合っているであろう人の姿は見当たらない。
迷子を連れて行くサービスカウンターは確か一階だったかな?
でも、この荷物を抱えてこの泣いている他所の子を連れてエスカレーターを降りるのは色々難儀な気がする。
かといって、ここのエレベーターも来るのが遅いし。
それとも近くにいる店員さんを見付けて任せようか?
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