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その日の朝
ある朝、テーブルの下から座敷童が顔を出した。
正確には赤地に白い鹿の子模様の着物に山吹色の帯を締めた赤ちゃんがダイニングテーブルの椅子の下からハイハイしながら現れたのだ。
「君にも見えるの?」
コーヒーの缶を手にソファに座っていた夫が棒立ちになった私に声を掛ける。
我に返って歩み寄ると、和装の赤子も迷いなく床をハイハイして近付いてきた。
「その赤ちゃん」
夫の声にはまだ自分の言葉すら信じ切れていないような虚ろさが漂う。
これは九ヶ月くらいの子だと察しをつけつつ抱き上げると、ずっしりとした重みが腕に掛かった。
「あなた、どっから来たの?」
腕の中の闖入者を揺らすと、ツンと甘い、乳臭い匂いがした。
「ウフフフ」
うちにはない、というより、今時どこの赤ちゃんも着ていない和服の赤ちゃんは笑い声を上げる。
ブツブツした鹿の子模様の布地を通して温もりが伝わってきた。
「お父さんお母さんは?」
小さなほっぺにこちらの頬を押し当てると、乳臭い匂いと共に滑らかな感触がした。
「キャッキャッ」
笑い声と共に髪の毛を捕まれるのを感じる。
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