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「にしても、さっきあの女が全力ダッシュで登校してたけど、あいつ始業が八時二十五分なの知らねぇのかな」
「あの女……」
「察し悪ぃな。あれだよ、東京女」
ああ。確かにさっき山内さんは走って去ってたけど……。走る理由は自分にも分からないので、これに関してはどうとも言えない。まぁ、知っていたとしてもライトの望む返しでないと面倒なことになるから結局話さないような気もする。
「にしても、早速一人で登校なんてかわいそうだよな~。本当に友達いないんだろうな」
「あ、あのさ」
「ん?」
「今日から、山内さんと一緒に下校してもいい?」
「……は?」
……ああ。
さっき、「ライトの望む返しでないと面倒なことになる」と思ったばかりだったのに。なんで山内さんと帰る許可を得ようとしているんだろう……。
――仲良くなりたいって気持ちに、理由なんている?
別に、自分は山内さんとすごく仲良くなりたいわけじゃないし、彼女が絡んでくるのが少し鬱陶しくもある。あるけど……。
「山内さん、変わってるけど面白いし。同じ部活だし、帰ろうかなぁって」
そうだ。ライトとばかりつるんでいる自分にとって、山内さんは変人でしかない。興味があるから仲良くしたいけど特に理由はないなんて、本当に変わってる。そんなところに、なんだか少し気になってしまっている。
「ライトは東京だって言ってるけど、そんな自分らを見下すような人じゃないし。ダメ、かな」
「……ダメに決まってるだろ」
ライトが唸るような低い声を出す。
ああ、怒らせてしまったかな。
「なんであいつと一緒に帰るんだよ、おかしいだろ。シンヤの友達は俺であってあいつじゃない」
「で、でも、同じ部活だし……」
「なんだよ、俺だってサッカー部の連中と仲いいけど、親友はシンヤだから一緒に帰ってるんだぜ? なんだ、本当は一緒に帰るのが嫌なのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「それかあれか? あの女のことが好きなのか?」
どうしてそういう風にしか連想できないのだろう。
「ち、ちが……」
「いいよ。分かった。シンヤがそういう趣味だなんて思ってもいなかったけどな。あいつと一緒に帰れよ。俺はお前と違って友達も多いから別にサッカー部の奴らと帰ればいいしな」
ああ……。まずい。
「ご、ごめん、ライト、ライトがそこまで怒るなんて思ってなくて……」
「うるせぇ。話しかけてくんな。勝手にしろ」
触れたら切れてしまいそうな鋭い視線で自分を見た後、振り返りもせず、スタスタとその場を去った。
ああ、ライトって登下校の時、自分の歩く速度に合わせてくれていたんだな……なんて場違いなことを思った。
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